[写真]今年8月の緊急記者会見で協業の発表に臨むトヨタの豊田章男社長(左)とマツダの小飼雅道社長(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 米国や欧州、そして中国でも自動車の電気自動車(EV)シフトへ向けた規制が相次いでいます。そうした中で、「内燃機関エンジンはもう終わるではないか」「トヨタがEV対応で出遅れている」とする言説がメディアを賑わせています。しかし、それらの見方は本当に正しいのでしょうか。マツダやデンソーと立ち上げた新会社でどう対応しようとしているのか。EVをめぐる世界の自動車業界とトヨタの戦略について、モータージャーナリストの池田直渡氏に寄稿してもらいました。

【図】「マツダさんに負けたくない」豊田章男社長が口にしたクルマ愛と危機感

内燃機関エンジンのクルマはもうゼロになる?

[模式図]新たに発足したEV C.A.Spirit株式会社。社長を務めるのはマツダとの提携を進めてきたトヨタの寺師茂樹副社長。エンジニアリングを担当するのはマツダの藤原清志専務。力の入り方がよく分かる

 先月、トヨタとマツダとデンソーが出資する「EV C.A.Spirit株式会社」の発足が発表された。その名の通り、電気自動車(EV)の開発を目的とした会社だ。資本金はトヨタが90%、マツダとデンソーがそれぞれ5%ずつとなっている。

 巷間の噂では「トヨタはEV開発に出遅れた」という声が多い。今夏、欧州各国から一斉に伝えられた「内燃機関販売中止」の中長期プランに引きずられて、今すぐにでも「EV全盛=内燃機関没落時代」がやってくるというイメージになっているが、それは相当に早合点な理解で、クルマそのものもインフラもすぐにEV全盛を迎えられる状況にはない。実は欧州メーカーの実情は日本から見るような絵柄にはなっていないからだ。

 日経新聞の誤報によってボルボは2020年から全てがEVになるかのように伝えられたが、現実は「内燃機関オンリーのクルマの生産中止」であり、ボルボ自身の説明によれば、生産台数の8割はエンジンが搭載された48Vマイルドハイブリッドである。この他にストロングハイブリッドもラインナップに加わることを考えれば実際のEVの比率は頑張っても5%くらいが上限だろう。多くの方にとって、想像した数値との乖離はかなり大きいはずだ。

 もちろん、今後ゆるやかにEV化やハイブリッド化は進行して行くだろう。EV化が起こらないということではなく、そのペースについて大きな誤解があるのだ。現実には2030年時点でEVが主流になるとはとても考えられない。何より注目されているほどにEVは引っ張りだこでは売れない。

 世界のトップを走るノルウェーでさえEVのシェアは2.7%。新車に限れば23.3%だが、ユーザーの半数は「次はEVを買わない」とする調査結果も報道されている。水力発電がほとんどで電力単価が安く、元々エンジンオイル凍結防止用にガレージに230Vコンセントが必ず装備されているという面でも、諸条件が世界と乖離しているノルウェーですらこれが実情である。

 もちろん欧州のその他の国ではそれより低い。ドイツの実情は0.11%(新車登録の0.7%)それも車両価格の7.7%の補助金を付けての話である。だから未来永劫EVは普及しないなどとは言わないが、補助金なしで内燃機関とイーブンに比較検討される状態にはほど遠いのは数値が示す現実だ。