マツダスタジアムで育った梵は、新天地でのプレーを望んでいる

戦力外の男たちの行き先がなかなか決まらない。日本シリーズが終わると動きが出るだろうが、静かにオファーを待ち続けている一人の職人がいる。広島を自由契約になったベテラン、梵英心内野手(37)だ。
 10月3日付の自らのブログ「I Believe 6」に「広島で野球ができた事に感謝しています。しかし、まだ進んで行きたいと思い、今回の決断になりました。どうなるかわかりませんが、前を向いて行きます。12年という非常に濃い年月は自分にとって最高の時間でした。その時間と、今回の決断は、自分をもっと大きくしてくれると自信を持って言えます。またどこかで逢えることを祈り」と書き綴ってから沈黙を守っていたが、この日までの筆者の取材に答えてくれた。

「最後の意地を見せたいんです。どこかでチャンスをもらえるならと考えました」

 どちらかと言えば、闘志を内に秘めるタイプ、こういうことは、滅多に言わない男が、今なお燃え続けている心境を明かした。

 梵は広島・三次高から駒大、日産自動車を経て、2005年の大学・社会人ドラフト3位で広島に入団。ルーキーイヤーには「二塁・6番」で開幕スタメンに抜擢され打率・289、8本塁打、36打点、13盗塁で新人王を獲得した。翌年には18本塁打を放つなど長打のある部分も見せつけ、2010年には43盗塁で盗塁王、ゴールデングラブを獲得した。走攻守三拍子の揃った内野手だったが、度重なる故障などに苦しみ、今季は、ショートの田中広輔、セカンドの菊池涼介、サードには、安部友裕と若手の西川龍馬が台頭する12球団ナンバーワンのカープ内野陣に割って入る余地がなく、入団以来初めて1軍出場が一度もなかった。

 ただ、今季もファームでは48試合に出場して、70打数18安打で、打率.・257、9得点、打点1の成績。二塁打が5本、3盗塁と、出番が少ない中でも、衰えぬスピードと粘り強さはアピールしていた。守備は三塁で12試合、ショートで1試合守った。

 チームからは指導者の道も勧められたが、現役続行を希望して自由契約にしてもらったという。

 ここ数年は膝の故障に苦しんできたが、「下半身のケガがようやくよくなり不安がなくなってきたんです。動けますし走れます。それだけにまだ勝負をしたいんです」と、梵は言う。

 現役続行にこだわったのは、万全な体調の状態でもう一度力を試したい、このままでは終われない、という職人らしい梵のプライドだろう。不完全燃焼なのだ。
 本人は、「まだ、どこからも具体的な話はありません。でも、この決断が間違っていなかったことを信じたい」と言うが、15日に広島で行われる合同トライアウトには参加せずにオファーを待つ方向だ。

 チームに貢献する粘り強いバッティングだけでなく、守備固めや機動力、小技もできる。セの他球団を嫌がらせた広島野球をとことん叩き込まれてきた梵の存在に注目しているのが、中日と楽天だ。

 中日の森監督は、駒大の大先輩でチームも“つなぎ”のできる職人を求めている事情がある。新人の京田陽太が、ショートのポジションをつかんだが、2000本安打を達成したセカンドの荒木雅博も40歳で、もう一人、攻守に便利な野球を知っているベテランが必要だという。また楽天も今季バックアップメンバーに苦労してきた事情があり“何でもできる”梵に関心を示しているという。

 通算1096試合に出場し、打率.264、990安打、74本塁打、357打点、135盗塁を誇る来季でプロ13年目となる“いぶし銀”のプレーヤーのまだまだ終わらぬチャレンジに注目したい。 
 
 (文責・駒沢悟/スポーツライター)

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