AIを使って日銀の黒田総裁の表情を分析し、金融政策の動向を探ろうという試みが話題となっています。人間の顔には、本人の意思とは関係なく、ごく一瞬だけ感情を示す表情が表れることが知られています。AIの技術が普及すると、こうした分析技術が発達する可能性がありますが、私たちにとってよいことなのかは微妙なところでしょう。

分類された表情は8種類

日銀・黒田総裁の微表情、AIでホンネを探れる?

 この研究は野村證券金融経済研究所のエコノミストと米マイクロソフトの日本人社員が、会社のプロジェクトとは別に共同で進めているのですが、市場関係者の中では大きな話題となっているようです。

 両名は、黒田総裁の記者会見の動画データを0.5秒ごとにキャプチャし、人工知能のモデルを使って表情を分類するという作業を行いました。分類された表情は「喜び」「怒り」「悲しみ」「驚き」「恐怖」「軽蔑」「嫌悪」「中立」の8種類です。

 分類された表情について、会見ごとにどの感情の割合が高いのかについてとりまとめたところ、ある特徴が見られたとのことです。マイナス金利やイールドカーブ・コントロールといった重大な政策変更を行う直前の会見では「怒り」や「嫌悪」の割合が高くなったそうです。

 また金融政策変更の決定を行った後の会見では「悲しみ」の割合が低下していました。マイナス金利やイールドカーブ・コントロールは賛否両論の激しい政策でしたから、黒田氏の感情もそれを反映していたのかもしれません。

海外では表情の分析を犯罪捜査に活用するケースも

 人は、本人は自覚していなくても、一瞬だけ感情を示す表情が顔に表れることが知られており、海外では表情の分析を犯罪捜査に活用するケースもあるそうです。こうした表情分析については、実在する微表情の専門家をモデルにした米国のテレビ・ドラマ「ライ・トゥ・ミー(Lie to me)」がヒットしたことで多くの人に知られるようになりました。

 これまでは専門のトレーニングを受けた人しか、こうした表情の分析をすることはできませんでしたが、AIを使えば身の回りにある動画を使った専門的な解析が、いとも簡単に実現できてしまいます。政治家や企業経営者のウソを見抜くことができれば、国民や投資家にとっては朗報かもしれませんが、これは自身の隠れたホンネを人に見破られてしまうことと表裏一体です。

 ウソも方便と言いますが、人間の表情がAIの分析対象となった社会は、わたしたちにとって心地よいのかどうかは何ともいえません。

(The Capital Tribune Japan)