写真:松尾/アフロスポーツ

 残り時間がゼロに近づいてきても、今シーズンから東京ヴェルディを率いる、スペイン人のミゲル・アンヘル・ロティーナ監督は泰然自若としていた。

 全11会場で午後4時にキックオフされた19日のJ2最終節。すでに湘南ベルマーレとV・ファーレン長崎がJ1への自動昇格を、最後の1枚を4チームが争うJ1昇格プレーオフへの進出も名古屋グランパスとアビスパ福岡がそれぞれ決めていた。

 残るは2枠。試合前の時点で6位の東京Vは、ホームの味の素スタジアムに5位の徳島ヴォルティスを迎えていた。両者の勝ち点はともに67で、得失点差で徳島がリードしている。

 後半終了間際の時点で状況は1‐1。引き分けでは徳島を抜けない。しかも勝ち点差1で松本山雅FC、さらに1差でジェフ千葉が追っている。それでも、スペイン1部のオサスナやセルタなどで一時代を築いた60歳の名将は、「それほど焦ってはいなかった」と冷静だった。

「他の2会場の情報を入れながら戦っていたので。引き分けでもプレーオフへ行ける可能性が高かったし、もし勝利が必要ならばより早い選手交代に動いていた」

 実際、松本山雅は京都サンガにリードを許し、千葉と横浜FCは1‐1だった。そして、ベンチの落ち着きがピッチにも伝播したのか、徳島にボールを支配されながら、集中力を途切れさせない。

 耐えた末に獲得した後半43分の左CK。DF畠中愼之輔のヘディングは左ポストに弾かれたが、こぼれ球をMF内田達也が執念で押し込む。値千金の決勝弾を守り抜いた直後にチーム初のJ1昇格プレーオフ進出と、開幕前から合言葉にしてきた“快挙”を成就させた。

「今シーズンはPKを取られていないんですよ」

 38歳の元日本代表、MF橋本英郎が自慢げに胸を張った。42試合の長丁場で相手に決められたPKがゼロなら、与えたPKもゼロ。ロティーナ監督が口を酸っぱくしながら、要求し続けた至上命題だったと橋本が続ける。
「PKを取られないためには、無理な体勢でボールを取りにいかないこと。相手が有利なときに無理やりボールを取りに行くからPKになるわけだし、結局ペナルティーエリア内でそういうポジションになるということは、そこまでのポジショニングが悪かったからなので」

 PKゼロという明確な目標を設定することで、実現させるためのプロセスを選手個々に考えさせ、結果として守備を安定させる。スペイン時代から守備を重んじた指揮官の指導は微に入り細だったと、下部組織から昇格して2年目の20歳、MF井上潮音は笑う。

「どのようにポジションを取れば上手く守れるのか、上手くボールを回せるのかということを本当に正確に、理論的に教えてくれた。ヴェルディではなかなか教えられなかったことなので、今年はすごくプラスになっています」

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