アメリカで巻き起こったジャズブームは、1930年代には世界にも愛好者を増やしていきました。クラシック・ジャズからモダン・ジャズへ、音楽は進化を遂げていく中、そこには新しい言葉も生まれます。「ホット・ジャズ」と「クール・ジャズ」これはいったいどういうものなのでしょうか? ジャズ評論家の青木和富さんが解説します。

【連載】青木和富の「今夜はJAZZになれ!」

「イカす」から「クール」へ

 「クール」というと、本来の涼しいとか、冷たいといった意味のほかに、素晴らしいとか、かっこいいといった意味があるのは、おそらく誰もが知っている。ところで、1950年代末に石原裕次郎が登場したときに、裕次郎が映画の中で使い流行らせたという言葉に「イカス」があるが、これは「クール」の日本版と言えるのかもしれない。ただ、この言葉は「クール」ほどに定着しなかったようだ。どうも、「イカす」という音の響きがイカサナイのだと個人的には思う。

 その結果、「イカす」はいつの間にか「イケてる」に変化した。イケてる、イケてないには、語感にそれほどのトゲはなく、言葉が自然に洗い直され、今では常用されるようになったのだろう。ちなみに1990年頃に「いかすバンド天国」という人気TV番組があった。いわゆる「イカ天」だが、この頃はすでに「いかす」は古語に近く、そのイケてない違和感をジョークのように逆手にとった見事なタイトルだったと思う。

ホットなジャズはヨーロッパにも広がる

ジャンゴ・ラインハルト(the William P. Gottlieb collection )

 閑話休題。話をジャズのクールに戻そう。クールの対語はホットだが、その昔、ホット・ジャズ、クール・ジャズという呼び方があった。この違いは、なかなか込み入った話になるので、個人的には簡単にホット・ジャズはクラシック・ジャズ、クール・ジャズはモダン・ジャズと割り切った方がいいように思う。戦前のフランスを代表するギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトが参加したグループをフランス・ホット・クラブ五重奏団といった。このホット・クラブとは、フランスのジャズ愛好家団体のようなもので、ユーグ・パナシエ、シャルル・ドロネーらによって組織された。このふたりのジャズの熱愛ぶりはすさまじく、当時のアメリカのファンを圧倒する成果をジャズの歴史に刻んでいる。

 彼らは『JAZZ HOT』(フランスの発音で、通常ジャズ・オット誌と呼ばれる)という世界最初のジャズ雑誌を創刊し、そして、ドロネーは世界で初めてジャズ・レコードの記録をまとめた『ホット・ディスコグラフィー』を1936年に出版している。これは戦後にさらに『ニュー・ホット・ディスコグラフィー』としてほぼ完成されたかたちで増補版が刊行され、クラシック・ジャズ愛好家の座右の書となった。ちなみにこのディスコグラフィーは、1942年までのジャズ・レコードの記録で、それ以後のモダン・ジャズ期はデンマークのヨルゲン・G・イエプセンの11冊の大著『ジャズ・レコーズ』に引き継がれるのだが、こうしたヨーロッパのジャズ愛は、本当にすごいと思う。

 ジャズは確かにアメリカの音楽だが、すでに戦前からジャズを支えたリスナーは世界に広がっていたのだろう。もうひとつ余談だが、フランスのジャンゴ・ラインハルトのレコードも、すでに戦前に日本でもプレスされ、聴かれていた。それほど日本でもジャズは、よく聴かれていた音楽だった。ちなみにホット・クラブ・オブ・ジャパンという鑑賞組織が日本にも存在する。

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