『ヒトラーに屈しなかった国王』(C)2016 Paradox/Nordisk Film Production/Film Vast/Zentropa Sweden/Copenhagen Film Fund/Newgrange Pictures

 スカンディナヴィア諸国のノルウェー。日本では、フィヨルド、画家のムンク(「叫び」)、スポーツファッションブランド「ヘリーハンセン」、アウトドアメーカー「ノローナ」、そしてなんといっても大ヒットアニメーション映画『アナと雪の女王』の舞台として知られる。

 『アナ雪』もそうだが、ノルウェーは王国だ。でも専制君主制ではなく、立憲君主制。要するに、国王も含め、国民は誰もが法の下に生きることが定められている。本作で描かれる“国王”ホーコン7世は、1905年にノルウェーがスウェーデンとの同君連合を解消して独立した際、当時の国王オスカル2世に代わり、国民投票でデンマークから招かれた。

 第2次世界大戦時、侵攻してきたドイツ軍ヒトラーによって、降伏か、開戦かの選択を迫られたホーコン7世が取った行動を、監督のエリック・ポッペはなぜいま映画化しようと思ったのか? その動機こそこの映画に惹かれる所以なのではないかと思い、まずホーコン7世のことからうかがってみることにした。

ホーコン7世という“人間”を描きたかった 3年もの歳月をかけ入念にリサーチ

エリック・ポッペ監督(撮影:関口裕子)

エリック・ポッペ(以下ポッペ):「ホーコン7世は、最初から自分の使命を理解していた国王でした。自分は、法と国民に仕えているのだとね。たぶんそんなふうに考える国王は少ないのではないでしょうか。そこが非常に面白いキャラクターだと私は思ったのです。ノルウェー国民は皆、ホーコン7世について、立憲民主制について学校で学びます。だから尊敬はしていますが、自分たちが国王のために働くのではなく、国王が自分たちのために働いているのだと考えているのです」

 立憲君主国とはどういうものか? それがこの映画のテーマだ。ヒトラーに降服を迫られたホーコン7世は、ベールの向こう側で自らのいいように結論づけることなく、あくまで議会を重要視して議論のうえ決定する。そのために悩み、家族と対立するが……。ノルウェーでは多くの国民がこの事実を知るからこそ、立憲君主制を理解しているのだ。

ポッペ:「でも学校で学ぶのはさわりだけ。ここまでドラマチックな背景があったことは知られていませんでした」

 ポッペ監督は、3年もの時間をかけ、歴史学者や数々の事件の目撃者などに、インタビューし、入念にリサーチを重ね、1万7000ページにもおよぶレポートを作り上げた。

ポッペ:「様々な立場の人が描いた日記を読んだり、話を聞いたり。現国王ハーラル5世の姉上であるアストリッド王女に、王宮に招待していただき、まるまる2日間かけて細かいディテールまでうかがえたことも大きな収穫でした。公文書には残らない、国王と家族の会話や過ごし方などは、この時の話をもとにしています。ただし、一人の話を鵜呑みにすることなく、ほかの方の証言と一致した場合のみ、正しいと判断して映画に取り入れました。リサーチは確証が取れるまで続けたので、この映画の中に出てくる物事は国王一家の普遍的な会話や、ドイツ公使ブロイアー氏と若い奥さんアンネリーゼの口論に至るまで、事実に基づいています。私は、 “王”についての映画を作ろうとしたのではなく、ホーコン7世という“人間”を描きたかったので」