強力なリーダよりも、周囲に気配りができる上司がいい。無料通話LINEの未読や既読スルーがとても気になる……。高度経済成長期の団塊世代が好んだ努力を重視する「内部指向型」の日本の大衆は、「みんな」の目が気になる「他人指向型」にうつり代わっていきました。

 ちょうど国民的アイドルSMAPの代表曲『世界に一つだけの花』の大ヒットは、そうした大衆心理の転換を示す象徴的な出来事だったと、帝京大学文学部、大浦宏邦教授はみます。なぜストイックに頂点の星を目指した内部指向の日本人は少数派になり、周囲を常に意識する他人志向が多数派へと変化したのでしょうか。そして他人指向の大衆が多い時代とはどんな社会なのでしょうか。


【連載】大衆心理からみる現代社会

図1 花屋さんで接客する女性(写真:アフロ)

 前回はリースマンの3類型を紹介しました。第1次産業が主流の時代には「これまで通り」を重視する伝統指向が成立しますが、人口の成長期には新天地で「努力」することを重視する内部指向が登場します。人口増加が緩やかになると「周りと仲良く」することを重視する他人指向が現れて内部指向にとって代わっていくことになります。ここでは他人指向の出現と特徴を見ていくことにしましょう。

1 他人指向の出現

 人口増加がゆるやかになり低成長期になると、商品をつくれば売れるというわけにはいかなくなります。市場の拡大が止まり、市場競争が激しくなる時代には、消費者の好みをリサーチして消費意欲を高める売り方を工夫する必要が出てきます。製造よりも販売が重要になり、買い手の心理に敏感な売り手が成功しやすくなるのです。

 成長期には会社自体が成長してポストが増えるので、同期で入った人がみな昇進していくことも可能でしたが、低成長期にはみなが昇進するわけにはいかなくなり、組織内でも競争が発生します。昇進には有能な人が有利ですが、同僚や上司に受けが悪い人は不利になります。「周りの人とうまくやっていける人」であることが必要な条件となるのです。大抵の企業で「求められる条件」の上位に「コミュニケーション能力」があげられるのは、こういう事情を反映しているといえるでしょう。

 日本では1970年代には子供の数が減り始め、1975年には合計特殊出生率が2を切りました。少なくなった子供は親に大事に育てられるようになります。親が頭ごなしに子供を叱ることは減り、子供の説得を試みる親が増えてきます。「ミー、聞いて。そんなことしたらお店の人が困るでしょ」。私もこんな風に子供を諭す母親を見かけたことがありますが、リースマンはこういう子供への接し方を「納得づくの原理」と呼びました。

 子供の気持ちに配慮し、納得づくの原理で子供に接する親から、子供は他者への接し方を学ぶことになります。子供は他者の気持ちに配慮し、他者を傷つけたり不快にさせたりしないことの重要さを学ぶのです。そしてそのようなすべを身につけ、対人能力を高めた人が成功できる社会環境が整ってきます。こうして出現した「周りと仲良く」することを重視する新しい心理傾向をリースマンは他人指向と呼びました。前回紹介したように日本では1980年以降、「身近な人たちと、なごやかな毎日を送る」ことを生活目標として重視する人が多数派となっています。次に他人指向者の特徴を見ていくことにしましょう。

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