[イメージ]現代社会に欠かせない時計。どのくらい高精度になっているかご存じですか(写真:アフロ)

 私たちの生活を支えるカーナビゲーション・システム。それを実現させたのが、人工衛星から発信される正確な時間情報です。しかし、高精度の時間にたどりついたことで、新しい課題もうまれたといいます。

 その新たな課題とは何か ── 。時の研究家、織田一朗氏が連載第2回「カーナビは原子時計のお陰」を執筆します。


正確な時間情報が可能にしたカーナビ・システム

カーナビ(著者提供)

 今やドライブの必需品となったカーナビゲーション・システム〈カーナビ〉は、知らない土地でも懇切丁寧に案内をしてくれる便利な道具だ。

 これは、米国が始めた全地球測位システム(GPS)を活用するもので、高度2万kmの上空に打ち上げられた31基の人工衛星から発信されている正確な時間情報で位置を割り出す。GPS衛星には、誤差が30万年に1秒以内という高精度の原子時計が搭載され、常時、時間情報を発信しているが、この中から近くを飛行している3ないし4基の時間情報の到達時間の差を照合すると、受信地の正しい位置を特定できる仕組みだ。

 もともとは、米国が軍事利用を目的に開発したものだが、民間利用にも開放されたため、航海、航空、ドライブなど様々な場所で使われるようになった。問題は精度で、誤差が数m~数十mにもなるとカーナビには使用できないが、セシウムやルビジウムなどを素材に使った原子時計が小型化し、衛星に搭載できるようになったことと、様々な補正方法が工夫されたことで、利用は一気に進んだ。

 時間精度の基準となる振動(周波)は、正確な振動(周波)であるならば、高い振動数(周波数)ほど時間を高精度に測定できる。1日の誤差が数秒~数十秒の機械式時計の振動数は1秒当たり5~10回、1か月に数秒~数十秒の誤差のクオーツ時計は数万回だが、セシウム133原子の周波数は約92億回(正確には基底状態で91億9263万1770回)にもなる。

ズレは2000~3000万年に1秒、原子時計が可能にした高精度の時間

世界初のセシウム原子時計の写真

 原子時計を最初に製作したのは、アメリカ海軍天文台のウィリアム・マルコビッツで、1949年にアンモニア原子時計をつくった。1955年にはイギリスの国立物理研究所のルイス・エッセンがセシウム型の製作に成功したが、時間精度はいずれも3000年に誤差1秒だった。エッセンは55年から3年間、当時の標準時だった暦表時との比較を行ったが、これによって原子時計の正確さと実用機能性が証明され、1967年に秒の定義がセシウム原子の振動数に置き換えられることにつながった。

 原子時計には様々な方式があるが、ここでは、代表的な吸収(共鳴)型のセシウム原子時計を説明しよう。1秒間に92億回もの周波数を1から数えるのは不可能だが、92億回の周波数に設定したスペクトル線(分光器を通して光を分解した際に見える線)の周波数に近いマイクロ波を原子や分子に当て、両者の周波数が一致したときにマイクロ波の吸収が最大になる「ラムゼー共鳴」を利用する。共鳴すれば、マイクロ波が理論値の振動数で発振されていることが確認され、ズレていれば、取り出したデータを元に、内蔵している時計の基準としている発振器の周波数を補正する。

 「ラムゼー共鳴」は2回行うと精度が格段に高まるが、マイクロ波を2回照射するには長さが必要になるので、誤差が約600万年に1秒程度の高精度な原子時計(原子周波数一次標準器)のサイズは2mほどになる。また、原子を垂直に打ち上げて測定する「泉型」は、測定できる原子の数が増えることもあって、精度はさらに高まり、誤差は2000~3000万年に1秒となる。

 GPS衛星に搭載する原子時計は、サイズを小さくまとめ、測定に使用する原子を補給できないため、測定頻度を減らしているが、保証精度は30万年に1秒になっている。

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