日本銀行本店(写真:ロイター/アフロ)

 最近のサーベイ指標を見る限り企業の価格設定スタンスは徐々に積極化している可能性が高いと言えます。日銀短観で企業のインフレ見通しを確認すると1年後、3年後、5年後の何れも「販売価格見通し」が上昇傾向にあります。一般にこの指標は「物価見通し」が上向かない、或いはそれが2%に届かないことをもって物価目標達成の難しさを論じる材料となっていますが、直近3回の調査は5年後の「物価見通し」が横ばいとなるなかで「販売価格見通し」が引き上げられており、価格設定スタンスの強気傾斜を窺わせる結果となっています。これまで両者は共に下落してきましたが、ここへ来て販売価格のみが引き上げられているのは、労働コスト増加を価格転嫁する動きが広がっている可能性を窺わせます。

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日銀短観、労働コスト上昇をサービス価格に転嫁の可能性 「内生インフレ」の兆し

 そうした観点から、同じく日銀短観の販売価格判断DIを確認すると、全規模・全産業のそれが原油高に直面した2008年の水準に比肩しました。産業別では労働コスト上昇の影響が色濃く反映される非製造業の水準が製造業のそれを上回り、非製造業を規模別にみると大企業が5回調査連続でプラス圏を維持する下、中小企業がマイナス圏を脱し、1991年と同等の水準を回復しています(直近ピークは2014年の消費増税時期に重なるため「参考記録」)。非製造業を中心に深刻な人手不足に直面する下、効率性改善で吸収できなかった労働コスト上昇をサービス価格に転嫁した可能性が濃厚です。この見方が正しければ、日銀が渇望する「内生インフレ」が芽生えつつあることを意味します(反対に外生インフレとは、主に円安や原油価格上昇などによって生じる)。

日銀短観 企業物価見通し(5年後)

 他方、消費者物価統計では「家賃」の推計の難しさや「公共サービス」の硬直性もあって、物価全体の5割を占めるサービス物価が0%近傍で推移し、物価全体の頭を抑える構図になっています。しかしながら、日銀短観の結果をみる限り、サービス物価の実勢はもう少し強めの印象を受けます。

 日銀はこうした消費者物価統計の不完全さを問題視していますが、今後も消費者物価統計でインフレ圧力が確認できない状態が続けば、物価統計の精度を疑問視する姿勢を一段と強めてくる可能性があるでしょう。その場合、筆者が以前から指摘しているとおり、消費者物価統計のなかで「家賃」のように景気循環を反映せずに一貫して弱めの動きを続けている項目を除去して、インフレの基調判断をする方向に舵を切ってくる可能性があります。その場合、日銀の認識するインフレ率は消費者物価統計よりも高くなり、金融緩和の出口が近づくことを意味します。

日銀短観 販売価格判断(非製造業)

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。