ケンカどころか、じつは仲良くしていたようだが

 けれど、この演奏をじっくり聴きなおしてみると、この説には納得できない部分がある。最初のテイク1と聴き比べると、確かにモンクの行動は異様だが、それ以上に見逃せないのは、このテイク2の演奏全体の素晴らしいテンションの高さだ。あらかじめ細かくアレンジされたように、様々なアイデアが演奏者たちに共有されている。モンクのソロも、テイク1とほとんど同じアイデアが繰り返され、即興はその柱のアイデアの周辺で動いている。ソロが止まったのは、おそらくその展開が、瞬間空白状態になり、時が止まったような金縛りのようになってしまったのではないだろうか。マイルスは、それを察知し、すぐさま動き、演奏を継続させた。最後のミュートの頻繁な交換も、このテンションの高い演奏を継続し完成させたかったからだろう。ダメと思ったら、演奏は途中で止めたはずである。

 実は、この日のセッションは、噂とは違って、ミュージシャンたちには満足のいくものであったようだ。本当かどうか分からないがマイルスとモンクは、ケンカどころか、この日、モンクはマイルスを自宅に招き、朝まで話が弾んだという逸話も残されている。

 もうひとつ。この「ケンカ・セッション」をきっかけに、マイルスとモンクの共演はないとされているが、これもファンの勘違いである。この翌年のニューポート・ジャズ・フェスティバルで同じステージに立ち、モンクの「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を演奏している。これは観衆に大いに受け、これがきっかけで、マイルスはプレスティッジを離れ、メイジャーのコロムビア・レコードと契約することになる。ただ、モンクはそのときの演奏が大いに不満で、ニューヨークへの帰りの車の中で、アレは間違った演奏だとマイルスに文句を言ったという。それに対しマイルスは、観衆に受けたからいいじゃないかと反論すると、怒ったモンクは、その場で車を止めさせ、降りて一人歩きだしたという。以後、この二人のジャズの巨星の共演は、ホントにない(と思う)。

(文・青木和富)

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