撮影:高橋邦典

 港町のムンバイにはビーチがいくつかある。正直なところ海の汚染とゴミだらけの砂浜で、とても泳ぐ気にはなれないのだが、地元民たちはそれなりにはしゃいで楽しんでいる。まあ、極端に蒸し暑い夏のムンバイでは、水があれば飛び込みたくなるという気持ちは分からなくもない。

 とはいえ、ハワイのビーチのようなイメージとは大違いで、保守的なインドでは浜でもみな服を着たままだ。特に女性が公の場で水着姿になることなど、まずあり得ない。

 南ムンバイの海岸線に沿って伸びるマリン・ドライブでは、一定の間隔をあけて恋人たちが肩を寄せ合う。比較的リベラルなムンバイとはいえ、男女が親密に寄り添える所がそうあるわけもない。家には兄弟家族が多いのでプライバシーなど皆無だし、だいたい見合い結婚が主流の堅い社会では、デートなどご法度だ。この海岸通りは、恋人たちが二人きりで親密に寄り添える、数少ない場所なのだ。少し北にあるジュフは映画スターなども住むセレブな地区で、広い白浜のあるここのビーチは、 インドの基準で見ればなかなか綺麗。夏場は浜に小さな遊園地までできて、週末は家族連れで賑わう。

フォトジャーナル<インドの旅>- 高橋邦典 第51回

撮影:高橋邦典

 海にしても川にしても、やはり水のある町はいいなと思う。 少し観念的だけれど、「水は生の源」という本能が、人間に備わっているからだろうか?

 どこへいっても雑踏から逃れられないムンバイでも、広がる海を向いていれば人間の顔を見なくてもすむ。たとえ水が汚れていようが、ビーチは、カオスに溢れたこの町で、喧騒から逃れてひと息つける「憩いの場所」だ。

(2013年12月/2010年7月撮影)

※この記事はフォトジャーナル<インドの旅>- 高橋邦典 第51回」の一部を抜粋したものです。