中国のデボン紀後期地層より発見された新属新種の木「Xinicaulis lignescens」。最良の保存状態の化石は、新たな最古の樹木の姿を与えてくれる(写真提供:徐洪河博士)

 3.8億年前に地球上に現れたとみられる樹木。ほぼその時期に近い中国のデボン紀後期の地層から、当時の細胞や組織を見ることができる貴重な新属新種の樹木の化石が見つかったことが、科学雑誌で発表されました。

 奇跡的に最良の保存状態を保っていたその化石からは、現在の樹木とまるで異なり、樹木出現最初期とは思えない進化の常識から外れた複雑な組織構造だったことがわかりました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、研究者から提供を受けた貴重な写真とともに報告します。


中国における樹木化石の大発見

中国北西部の新疆ウイグル自治区塔城にあるデボン紀中期―後期の化石現場。2012年以来、良質な木の化石が多数発見されており、樹木の起源を探る上で鍵となる情報を秘めている可能性がある(写真提供:徐洪河博士 )

 この記事は前回、上中下に分けて紹介した「最古の木の化石探求シリーズ」の続編だ。(まだご覧になってない方は以下のサイトを参照していただきたい。)樹木の起源と初期進化の流れ、代表的な化石グループや種の特徴、そして森林の急激な発達についてまとめてある。デボン紀中期末から後期(約3.85~3.59億年前の間)において、「木の誕生から森林の進化」が起こったストーリーを化石記録は示している。
 ー「最古の木の化石探求(上)」:https://thepage.jp/detail/20171208-00000002-wordleaf
 ー「最古の木の化石探求(中)」:https://thepage.jp/detail/20171208-00000003-wordleaf
 ー「最古の木の化石探求(下)」:https://thepage.jp/detail/20171211-00000002-wordleaf

 そして今回は、最近、中国の初期樹木化石発見に関する研究を紹介してみたい。一連の化石群に関する興味深い研究論文が10月発表された(Xu等 2017)。
 ― Hong-He Xu, Christopher M. Berry, William E. Stein, Yi Wang, Peng Tang, & Quang Fu (2017). "Unique growth strategy in the Earth’s first trees revealed in silicified fossil trunks from China." Proceedings of the National Academy of Sciences 114(45): 12009-12014. http://www.pnas.org/content/114/45/12009.abstract

 正直にうちあけると、私はこの中国産デボン紀樹木の研究論文をもともと紹介しようと記事を書きはじめた。しかし、この研究の重要性、そしてデボン紀に出現した奇天烈な最古の樹木を文字通り「味わう」ためには、鍵となる予備知識や基礎情報がどうしても必要となる。そのためにデボン紀の化石記録や木の解剖学的特徴などを(読者の方のために)まとめてみると、かなり長くなりはじめた。(しかしまさか三回分の記事になるとは我ながらびっくりだ。)

 閑話休題。その結果が上の一連の記事となった点、どうかご了承いただきたい。自然科学の分野を探求する上で、こうした予備知識の蓄積は、あえて断るまでもなく重要だ。知識を蓄えれば蓄えるほど、その奥深さに触れることも可能になってくるはずだ。この傾向はサイエンス全ての分野においてあてはまるだろう。そして、特定の分野やテーマに精通する専門家は、この点において非常に(我々にとって)ありがたい存在といえる。(例えば今回紹介するデボン紀の植物化石研究者の努力と知識なくして、我々は「樹木の起源や初期陸上植物の進化」における(かなり)興味深いストーリーに、こうして触れることも不可能だったからだ。)

 さて、デボン紀の植物化石を研究するなら、中国はそのメッカの一つといっていい。この広大な国のさまざまな地域から、興味深い大小さまざまな植物の化石標本が実にたくさん知られている。一連の中国の化石群の中には、デボン紀前期の最初期の陸上植物から、デボン紀後期の初期(巨大)樹木の化石なども含まれる。まるで初期陸生植物相のオールスターの趣だ。(ちなみに前回ふれたように中国以外に、北米や西ヨーロッパなどからもたくさんのデボン紀の植物化石が知られている。)

 この論文の主著者である南京大学の徐洪河(Xu Hong-He)は、中国の豊富なデボン紀植物化石に研究に長年携わってきた。その他に、共同研究者としてイギリスのクリストファー・ベリー(C. M. Berry)博士(注:デボン紀後期の樹木研究の第一人者)や、(以前の記事で紹介した)最古の樹木「ワッツィエザ(Wattieza)」の研究で知られるウィリアム・ステイン(W. E. Stein)博士の名前も見られる。

 今回の研究は、中国北西部に位置する新疆(しんきょう:Xinjiang)のウイグル自治区において、2012年に発見された巨大樹木の化石にもとづく。このモンゴルとカザフスタン国境近くにある中国の現場からは、実にたくさんの良質な植物化石が発見されているそうだ。

 化石現場の風景の写真を、徐博士から直接この記事のために分けていただいた(謝々!)。上に掲載した写真を眺めていただきたい。化石現場は半砂漠のような気候の下にあり、岩肌がかなり広大な地域に露出していることもわかる。こうした荒野の真ん中のような場所に位置していては、なかなか週末にドライブがてら車で立ち寄ることは難しいだろう。しかし化石探索においてはうってつけの環境といえる。地表にむき出しになった岩石とともに、たくさんの化石が直接ごろごろ転がっている可能性があるからだ。

 この化石現場には、3億7400万年前 ── 「デボン紀後期はじまり」のフラニアン期(Frasnian)という時代にあたる ── の地層が露出している。この時代は北米最古の樹木ワッツィエザが登場した(=約3億8500万年前:デボン紀中期末)より、地質年代においてほんのわずかの差でしかない(1100万年後だ)。そのためまだかなり「原始的」な樹木の特徴を色濃く残していても不思議でないだろう。

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