田崎悦子(撮影:志和浩司)

 クラシック音楽と聞いて、「お上品な人たちが高価な服を着込んでコンサートに出かけるもの」と、真顔で答えた友人がいるんですが……と、そんな話を持ち出すと、ピアニスト・田崎悦子は笑い飛ばすどころか大きくうなずいた。

 「日本人って音楽を額縁に入れたがる、崇高なものにしたがるんですよ。聴く人だけじゃなく、演奏する人自体もフレンチドールみたいなかっこしちゃって。どこか間違えて輸入されてきちゃったんでしょうね。本来は音楽がメインで、自分が主役じゃないんです。もちろんお客様はおしゃれをしていい気分になるのもいいのですが、そういう人たちしか行かない、となると悲しいと思います。会社員でも、主婦の方でも、普通の方にもコンサートにお越しいただいて『クラシックはいいな!』と、思ってもらえたらとてもうれしいです」

宮廷の貴族からブルジョワ、そして庶民に広がっていったクラシック音楽

 その昔、クラシック音楽のオーディエンスが上流階級だった時代があるのは確かだという。

 「その名残があるのか、携わる人の中にも特権階級的な意識を持つ人がいます。上からものを見ているみたいな。だから広がっていかない。日本だけ、すごくそういった枠を感じます」

 クラシック音楽にとって一番”美味しい時代”は、18世紀から19世紀にかけてなのだとか。

 「当時はアッパークラス、宮廷にいる貴族のような人たちが楽しんでいました。ベートーヴェンが1770年生まれだから、18世紀の終わり。彼が初めて音楽家として普通に玄関から宮廷に入れたんです。それまで音楽家は台所のほうから入っていたそうです。召使と同じ扱いだったわけです」

 19世紀に入り、ショパン、シューマン、リストといった音楽家たちの時代になると、状況が変わってきたそうだ。

 「一人ひとりの個性が際立つ時代になってきて、ウィーンが主だったのがパリになる。すると今度は貴族というよりお金持ちたちの集う場所に出入りするようになったんです。庶民が本格的に聴けるようになってきたといえるのは、20世紀になってからじゃないでしょうか」