『麗しのサブリナ』とジャズの関係

 ヘプバーンで思い出すことが、もうひとつ。前出のビリー・ワイルダー監督は、大のジャズ好きで知られている。マリリン・モンローの『お熱いのがお好き』は、女性だけのジャズ・バンドにトニー・カーチス、ジャック・レモンが女装して加入するというコメディーだった。『麗しのサブリナ』は、これほど表立ってジャズは出てこないが、物語の鍵となる曲「イズント・イット・ロマンティック」は、リチャード・ロジャースの戦前のミュージカル・ナンバーで、この映画のテーマとして採用されてから、実は、頻繁にジャズ・アルバムでとりあげられるようになった。エラ・フィッツジェラルドなどは、その代表曲にもあげられるほどだが、聴き逃して欲しくないのが、ギターのタル・ファーロウの『タル』というアルバムだろう。テンポもメロディの歌い方も映画のダンス・アンサンブルと同じ味わいがあり、そして、ファーロウの名演にもなっている。いささか大げさな言い方になるが、デスモンドと同じく、当時のヘプバーンへのジャズ・ミュージシャンの自然な愛がある。

 ジャズは時代の流行歌とは関係ないというイメージもあるが、この時代までは、かなり近くにある存在だ。ビ・バップの即興演奏の中に、当時の流行歌の断片がちりばめられていて、耳のいい人には、それで録音年代が分かるということがある。ジャズは、奥が深い。

(文・青木和富)