わたしたちホモ・サピエンスの種が初めて出現した地はアフリカといわれています。先日学術雑誌「Science」にアフリカ以外の地では、最も古いおよそ19万年前とみられるホモ・サピエンスの化石がイスラエルで見つかったと発表されました。つまり、ホモ・サピエンスが約20万年前に現れたという従来の説と、ほぼ出現時期に近いころにはアフリカ大陸の外まで進出していたということになります。

 今回の発表で何がわかったのか、古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)の報告です。


イスラエルにおける新発見

我々の種「ホモ・サピエンス」はいつどこで現れたのだろうか? 初期人類の化石記録をながめてみると、いろいろ興味深い事実が浮かびあがってくる(写真:アフロ)

 化石記録のデータにもとづく古生物学の分野において、もっとも興味深く重要なテーマの一つに、「進化の起源」がある。この連載においてこれまでにも何度も取り上げてきた。例えば、「最古の生物(生物の誕生)」、「初期動物の出現」、「脊椎動物の歯の起源」、「陸生樹木の起源」、「ペット化のはじまり」などだ。
 
 ― 過去の記事の一覧参照:https://thepage.jp/series/483/

 このテーマは「我々ヒトとは何者なのか」という根源的な問いかけに少なからず通じるところがある。そのため古生物学にとって、興味深く最重要なものといえるだろう。

 しかし、具体的に「我々の起源はいつなのか?」そして「我々はどこから来たのか?」こうしたシンプルな問いに対する答えを得るには、やはり初期の人類の化石記録に目を向ける必要がある。

 「我々」とはあえて断るまでもなく、「ホモ・サピエンス(Homo sapiens)」という種のことだ。

 さて先週、1月26日付けの学術雑誌「Science」に非常に古いホモ・サピエンスの化石発見にもとづく研究が発表された(Hershkovitz等2018 )。このニュースはもうすでに耳にされた方がいるかもしれない。

 ― Hershkovitz, I., G. W. Weber, et al. (2018). "The earliest modern humans outside Africa." Science 359(6374): 456. http://science.sciencemag.org/content/359/6374/456

 論文のタイトルに「アフリカ大陸の外で見つかった最古のホモ・サピエンス」とある。なんともエキサイティングな研究だ。そのためにとりあえず書きかけていた記事を中断して、この研究論文を紹介することにした。

 あらためてこの論文のタイトルをにらんでみる。私にはかなり意味深く映る。好奇心旺盛な方ならいくつかの疑問がすぐに浮かぶはずだ。「具体的にどれくらい古いのか?」。そして「(アフリカ以外の)どこで見つかったのか?」

 論文の内容を簡潔にまとめた概要(abstract)をのぞいてみれば、こうした鍵となる情報はすぐに手に入る。その答えをここに列記しておく。

 発見された化石現場の年代は「約17.7万年から19.4万年前の間」と推定されている。(便宜上「約19万年前」と以降記しておく。)氷河期真っ只中の「中期更新世」の終わり頃にあたる(こちらの年表参照)。

 そして、発見された場所はイスラエルの「Misliya」と呼ばれる洞窟だ。紅海と地中海の間にあって、アフリカ北東部から距離的にはそれほど遠くない(こちらの地図参照)。

 化石種が現れた具体的な年代(時代)と地理的データは、長大な生物進化の歴史を探求する上で鍵となる。そして、今回の発見の重要性は、人類進化の研究を専門としていない私にも明らかだ。

 「我々ヒトはいつ、どこで出現したのか?」

 ホモ・サピエンスの起源と初期進化には、何か大きなメッセージが隠されているはずだ。