写真:アフロ

 モダン・ジャズの名門レーベル、プレスティッジは、ミュージシャンからの評判がことごとく悪かったと言われています。若き経営者ボブ・ワインストックは、あのマイルス・デイビスさえもこき使い、守銭奴的な一面もあったと言われています。一方、そんなワインストックだったからこそ、生まれた名作もあり、すべてが悪かったわけではないとの擁護の声もありました。ワインストックのさらなる悪評、そして擁護の声をジャズ評論家の青木和富さんが解説します。

【連載】青木和富の「今夜はJAZZになれ!」

潔癖主義的ブルーノート・レーベルとは、対比的な経営理念

 モダン・ジャズの名門レーベル、プレスティッジの印象が何故悪かったか、その理由は、リハーサルをロクにやらなかったとか専属契約制でミュージシャンの活動を縛ったと前回紹介したが、この2点は、逆に評価の高い同業のブルーノート・レーベルが、まさに対比的な経営理念をもっていたため、プレスティッジには不運であったと言ってもいいだろう。

 アルフレッド・ライオンが率いるブルーノート・レーベルは、今日の眼からすると、その経営理念は、むしろ潔癖症とでも言えるようなものだったかもしれない。入念なリハーサルは、確かに演奏のクオリティーを高めたことは間違いない。だが、専属契約制をとらないということは、リスクを最小にするという消極策でもあり、安心を求めるミュージシャンにとっては、決して居心地のいいものではない。むろん、ブルーノートは、専属契約はないけど、特定のミュージシャンは、専属契約のように次々とアルバムを制作し、絆を深めることは忘れてない。

 ただ、録音はやったが、経営上の判断でアルバムとして発表されなかった演奏もたくさん残されていたので、ミュージシャンには不幸な側面もある。ライオンの眼は確かだけど、後に発表されたそうしたお蔵入りの演奏で、代表作と言えるような素晴らしい演奏も少なからずあって、ファンを驚かせている。

ミュージシャンへの支払いを踏み倒したうえ、経費を請求

 では、プレスティッジの専属契約がミュージシャンにとってよかったかいうと、それはそんな簡単ではない。マラソン・セッションを強いられたマイルス・デイビスの例ばかりではない。

 ジャッキー・マクリーンは、こんな実情を明かし、若き社長のボブ・ワインストックを罵倒している。というのは、「専属契約をして録音しても、ギャラは払われず、むしろ、販売不振だったので、様々な経費を計算すると、マクリーンの方こそ、会社にこれこれの金額を支払わなければならないというのだ。そんな馬鹿なことがあるか」、というわけだ。

 これは事実かどうか分からないが、当時のジャズ・レコード・ビジネスの実態は、そんなものだったろう。この話は、ワインストックが守銭奴のような印象を残すが、しかし、ワインストックの方からすれば、こんな理由をつけて、出費をおさえなければ、会社は維持できなかったかもしれない。これは中小企業のオーナーと雇用者との間によくある話に似ている。ジャズのマイナー・レーベルの歴史は、常にそうしたもので、成功して大会社になった例はひとつもない。