2大会連続銀メダルを獲得した渡部暁斗は得意のラージヒルで金メダルを狙う(写真・アフロスポーツ)

 気まぐれな風がピタっと止んだ。ライバルのエリック・フレンツェル(29、ドイツ)や、ノルウェー勢が目の前で強風に苦しみ失速していたが、渡部暁斗(29、北野建設)のジャンプスタートのコンディションは悪くなかった。だが、得意のジャンプでトップには立てなかった。渡部3位で、5位のフレンツェルとは、わずか8秒差。あってないような後半のランスタートのタイム差である。

 その過酷さから“キングオブスキー”と呼ばれるノルディック複合個人ノーマルヒル。
 金メダルへの方程式が少しだけ狂うが、渡部にとっては、それも想定内だった。
「ジャンプで上位につけることができたので、そのタイム差からみて4人のトップ争いだと思いました。それでどのようなレース展開にしようか、それを考えるだけで本当に楽しくなりました」
 
 後半のクロスカントリーが集団走となることはわかっていた。
 駆け引きという名の戦略と、それを支える強靭なメンタルとスタミナ。壮絶な勝負が待ち受けていた。
 どこでスパートをかけるのか。それはロングスパートなのか、ゴールを目の前にしてからの一気呵成の短期勝負になるのか。心理戦が始まる。
 レースを引っ張っていったのは、ソチ五輪でもデッドヒートを繰り広げた渡部とフレンツェルだった。

 ジャンプ台の近くに作られた平昌のクロスカントリースキーコースは、強風にさらされた人工雪がベースだった。2.5キロのコースを4周する勝負だが人工雪は滑らない。日本のガリウム社の開発した特製のワックスを信頼あるサービスマンが塗りこみ、対策を練ったが、それ以上に厄介な雪だった。加えて強い向かい風にスタミナを奪われる。交互に先頭に立ち、あるいは引く。風をよけ、ライバルの顔色をみながら仕掛けるタイミングをうかがう。渡部は3周目で一度先頭に立つ。凄まじい心理戦である。

「出るべきところ、その場面、そのタイミングを走りながら計っていました。フレンツェルが逃げ切ろうと出てくればそれに食らいつき、時機をみて自分から仕掛けてスパートしていこうとの作戦ができ上がりました」

 渡部はフレンツェルとのマッチレースになると考えていた。
 ラスト4周目の最後の登り坂がポイントになった。フレンツェルがスパートした。だが、そこについていくはずの渡部が、強者のフレンツェルに置いていかれていった。

 抜きどころで先手を打たれて突き放されていくむなしさを渡部は実感していた。
 
 実は、ラストスパートでの明暗には、伏線があった。