クラシック・ファンをも取り込んだクールなアンサンブル

 しかし、このユニーク極まりないグループが世界中にファンを得たのは、逆説的に言えば、黒人音楽らしさを表面的に丁寧に消去したことにある。燕尾服に身を包んだ彼らのステージは、室内楽のような雰囲気で、それがジャズ以外のファンを取り込む大きな要因になったことは間違いない。実際、クラシック・ファンも楽しめる最適のジャズ入門グループといった紹介のされ方が実に多かった。ホーンのないそのクールなアンサンブルは、その本質がブルースであることに気付かなくても、心地よい深みのある極上の音楽であることには変わりはないのである。

 ルイスのヨーロッパ文化へのこだわりも尋常ではない。バッハだけではない。ピアノの椅子のマットもルイ・ヴィトン製というのはちょっと楽しいエピソードだが、そんなことではなく、普段あまり言及されないが、ルイスは、中世の大衆演劇の仮面劇(コメディア・デラルテ)の世界に深い興味と関心を寄せていた。もし、初期のMJQの代表作を挙げるとすると、その集大成ともいうべき『ザ・コメディ』は、是非聴いてほしいアルバムだ。MJQの初期のヨーロッパの哀感溢れるメロディーの世界がここに詰め込まれている。仮面を被った様々なキャラクターが即興的に物語を紡いでいくこの演劇世界は、ルイスにはどこか黒人たちがジャズを生み出したこの人間社会につながるものがあるように見えたのかもしれない。彼らがさっそうと燕尾服で舞台に登場したのも、燕尾服がどこか仮面のような役割をしていたように思えてならない。

(解説:青木和富)