[イメージ写真]現在の投票では、候補者や政党名を自筆で書く「自書式」が採用されている(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 「ネット選挙」導入への議論の前に考えるべきことがある――。慶應義塾大学SFC研究所の上席所員で起業家の岩田崇氏はこう訴えます。インターネットを活用した投票や投票所などに出向き端末を使って投票する「電子投票」に関しては、実現性について昨年末から議論が始まっています。決してバラ色ではないというネット選挙と、いまの投開票方式が抱える課題について岩田氏に寄稿してもらいました。

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総務省で研究会始まる

 昨年末、総務省で「投票環境の向上方策等に関する研究会」が開かれました。12月初旬の報道各社のニュースでは、「総務省、 ネット投票導入検討」(日本経済新聞)、「ネット投票で来夏に報告書」(時事通信)と見出しだけ見るとネット投票に向けた議論が行われるように見えます。

 しかし議事要旨(リンク)を読むと、ネット選挙ありきの議論は行われていないようで、意見交換の議題となったのは、<投票しにくい状況にある選挙人の投票環境向上>、<選挙における選挙人の負担軽減、管理執行の合理化>と議事概要に記されています。ネット投票はあくまでも手段の一つとして検討に上がっているに過ぎないようです。

 この場合の「選挙人」とは有権者のことで、つまり私たちのことです。簡単にいえば、視聴覚障害などの理由で移動が困難な有権者にとって、現在の投票方法はハードルが高いため、このハードルを少しでも下げる方法を考えようということです。「管理執行」とは選挙管理委員会の仕事で、主に開票作業を指します。各地の自治体ごとの裁量で選挙管理が行われる中で自治体の負荷も決して小さくありません。

リスク対策は必須

 とはいえ、ニュースでの報じられ方は、ネット投票に注目が集まっていたように見えます。私たちはネット投票によって、現状の選挙にまつわる諸々の問題が一挙に解決するような夢を見てしまいがちですが、実際にそんなことはありません。むしろ、ネット投票の国政選挙への全面導入は、国の「セキュリティ=安全保障」上の厄介事が増えると考えるべきです。

 ネットを使えば他国の選挙にも容易に影響を与えられるような時代です。2016年の米大統領選へのロシアの関与についての疑惑は「ロシアゲート」と呼ばれ、米司法省やFBIがトランプ政権を追及していますが、未だ明確な証拠がないまま混乱しています。しかし、トランプ政権の関与の有無に関わらず、ロシアが関わったとされるフェイスブックやtwitterへの投稿や広告は、確かに存在していることをフェイスブック、twitterが認めています。つまり、ロシアの何処かからの意図や指示、そしてお金によって、米大統領選への干渉が行われ、偽アカウントによる投稿で数千万人以上の米国民に根拠のない虚偽のニュース、いわゆる「フェイクニュース」や広告がリーチしている現実があります。このようなネット、特にSNSを通じた世論への恣意的な干渉を「デジタル・ゲリマンダー」と呼ぶ研究者もいます。

 ある国の投票が他国、または他国の影響を受けた勢力によって干渉され、選挙結果が左右される恐れがあるということは20世紀にも見られた光景です。しかし、ネット環境が世界規模で浸透することで、このコストが劇的に低下しています。SFみたいですが、それが21世紀です。

 ネット投票を実現する前に、こうしたリスク対策は必須となっています。

 紙による投票の開票作業は確かに労力がかかりますが、セキュリティの面から考えると、例えば、各地の開票作業所に工作員を潜り込ませて干渉を行うことは手間がかかる割に見込める効果は低いので、セキュリティの観点からは「ほぼ最強」といえます。

 もう忘れられているかもしれませんが、今年2018年早々に話題になったニュースは、スマホやパソコンの心臓部であるCPUの設計自体によって生じるある種の欠陥によって、データの読み取りや意図せぬプログラムが実行させられる可能性があるという問題でした。インテルなどのメーカーからソフトウェアによる一応の対策は発表されていますが、最大の問題は、現在のスタンダードになっているハードウェア自体に穴があり、それはたまたま判明したものの、これからのハードウェアにも穴がないとは言い切れないということです。

 ネット投票の導入を本格的に考えるなら、こうしたネットを含むICTに関わる不都合な真実に向き合わなければなりません。

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