『ラブレス』(C)2017 NON-STOP PRODUCTIONS ー WHY NOT PRODUCTIONS

 ロシア映画界の鬼才、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『ラブレス』が4月7日より公開される。失踪した息子を捜索する自己中心的な両親の姿を冷徹なまでの美しさでサスペンスタッチに描き、2017年・第70回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した。

 離婚協議中のボリスとジェーニャの夫婦は、すでにそれぞれ別のパートナーがいた。新生活のために一刻も早く縁を切りたいと考えていた。2人の間には12歳になる息子のアレクセイがいるのだが、どちらも彼を必要としていない。ある日激しい罵り合いの中で息子を押し付け合ってしまう。その翌朝、学校に行ったはずのアレクセイがそのまま行方不明になる。彼らは必死でその行方を捜すのだが。

 離婚と子どもの失踪と捜索。同作に込めたズビャギンツェフ監督の思いとは? そして、自由な芸術表現活動の障壁となるロシアの「罵り言葉(マート)禁止法」に屈しない監督が編み出した対策とは?

厄介な「罵り言葉(マート)禁止法」への対抗策

アンドレイ・ズビャギンツェフ監督(撮影:小杉聡子)

ーー愛の消え失せた夫婦間で交わされる罵り合いが、とてもリアルに描かれています。ロシアでは芸術作品の中での言語の表現が規制されていると聞きました。そのような状況下で、表現の自由を守るために、どのような撮影を心がけていったのでしょうか? 

ズビャギンツェフ監督:そうですね。ご指摘の通り、役者たちには、ロシアで一般の人たちがふつうに使っているような言葉遣いをしてもらって、リアリティーを追求したいと思いました。2014年7月にロシアでは「罵り言葉(マート)禁止法」が施行されました。映画や演劇、文学作品、コンサートなどで、「ふさわしくない言葉を取り締まろう」というものです。それが出てからは、多くの映画監督や舞台監督が、法に触れないように、“そういう言葉”を入れないようにと自主規制をしはじめました。

 私自身はこの法律には無関心です。映画の中で、私は常に人々が実際に使っている言葉、民衆の言葉を使いたいと思っているので、基本的に自主規制はしていません。ただ検閲にはひっかかるのは厄介なので、映画の中で“そういう言葉”を登場人物が話しているときには、音だけを消しました。その場面では猥雑語も話していて、口はそのとおりに動かしていて、観ている人には、口の動きを見ればなんと言っているのかが、分かるようになっています。検閲にひっかかって、“ピー音”を上からつけられるのが嫌なので、自分たちでその音だけは消しています。それでもロシア語のネイティブには、発音されていないけれど、何と言っているのかが分かるというわけです。

 フランス人でフランス語の辞書を作っている方と話をする機会がありました。

 「フランスでも英国でも辞書には、どんな言葉でもすべて載っています。でもロシア語の辞書だけは、“そういう言葉”が取り去られていて載っていないのです」ということを言っていました。

 だからこそ、英語でFに始まる“4文字言葉”にあたるロシア語が映画の中や芸術作品の中で、ほかの言語のそういう言葉よりも力を持ってくると思うんです。禁じられているからこそ、それが発せられたときに力を持ってしまう。英米映画などでは、その“4文字言葉”が話されていても、誰もが水みたいに流してしまい、とくに印象を受けないと思うんです。でもロシア映画の中で、その“4文字言葉”が使われたときに、観ている人がハッとするのは禁じられているからこその反応なのだと思います。

 ロシアの文化省は、禁止語のリストを作っています。もともと禁止されている言葉は、4つだけなのですが、その派生語が多いので、ものすごい膨大なリストになってしまっています。それは読んでいるだけで、面白いですね。

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