[写真]平昌五輪の後、金正恩委員長は韓国を通じて、米朝首脳会談を要請した(ロイター/アフロ)

 平昌五輪後の3月8日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長からの米朝首脳会談要請を、アメリカのトランプ大統領が受諾したという驚くべきニュースが飛び込んできました。続く13日には、米政権内で「対話派」と目されていたティラーソン国務長官をトランプ大統領が解任しました。昨年以降、くすぶり続けている「米朝戦争」ですが、戦争学研究家の上岡龍次氏は「容易には開戦されない」と主張します。それはどういう論理なのか。上岡氏に寄稿してもらいました。

【写真】2018年 米国は北朝鮮を攻撃する? “第3の道”はあるのか?

瀬戸際外交とチキンレース

 アメリカの大統領がトランプ氏に代わると、トランプ大統領が北朝鮮を先制攻撃するのでは、との見方がありました。

 しかしトランプ大統領は開戦しませんでした。昨年は外交の主導権がアメリカと北朝鮮の間で往復し、軍事力を背景にした双方の“恫喝合戦”で終わりました。外交の主導権がアメリカの手にある時に、トランプ大統領は北朝鮮を攻撃可能でした。ですがトランプ大統領は攻撃しませんでした。

 「米朝戦争」が始まりそうで始まりません。これには理由があります。北朝鮮は「瀬戸際外交」を演じています。これは相手国に強引に戦争を売り付ける策です。相手国は戦争する意味がないので、譲歩することで戦争を回避します。このように、相手国に戦争を売り付けて譲歩させる策を瀬戸際外交と呼びます。これは、弱国が強国に挑戦するもので、歴史的にはナチス・ドイツのヒトラーやイラクのフセイン大統領も採用していました。

 北朝鮮は、オバマ大統領時代にも瀬戸際外交を行いましたが、オバマ政権は戦争を回避して譲歩しています。この場合、怒ると戦争になるのでチキンレースになります。

「制限戦争」とにらみ合い

[写真]金正恩委員長からの米朝首脳会談の要請に対し、トランプ大統領は5月までに会談する意向を示した(ロイター/アフロ)

 ところがトランプ大統領はオバマ大統領とは異なり、戦争目的の前提として「制限戦争」を採用しています。制限戦争は戦争自体が目的ではなく、軍事力で脅して相手国を譲歩させる策です。制限戦争において戦争を始めるのは、相手国が譲歩しない最終手段の場合です。トランプ大統領は、制限戦争論を主張するキッシンジャー元米国務長官と交流があるので、この策を採用したのだと思われます。

 キッシンジャー氏は、交渉と戦闘を段階的に進めるべきだと主張しています。さらに戦争目的は敵国政府の譲歩であり、敵軍の撃破ではないと説いています。

 制限戦争は、政治家が軍事に介入するため、軍事行動はパフォーマンスになります。政治家は軍事力を相手国に見せつけて、相手国の反応に合わせて軍事行動と外交交渉を行います。だから容易に戦争は始まらないのです。

《戦争目的の3区分》
・全面戦争(All-out war):交戦国の政権を否定する
・限定戦争(Limited war):戦争目的が限定されている戦闘と交渉
・制限戦争(controlled war):政治が軍事に介入する

 戦争目的には、この「制限戦争」を含めて「全面戦争」「限定戦争」の3つの区分があります。アメリカは第二次世界大戦でドイツと日本に対して「全面戦争」しました。全面戦争は、相手国の政権を否定するので基本的には国内戦争で使われる言葉です。なぜなら国内戦争では一つの国に複数の「政権」が生まれるからです。

 当然、一つの国に政権は一つなので、国内戦争は異質な政権を否定して吸収する戦争になるのです。しかし、アメリカの戦争観は歴史的に異例で、国内戦争である「南北戦争」(1861~1865年)の概念で外国と戦争したのです。