撮影:高橋邦典

 「日本人かい?」

 旧市街で写真を撮っていたら、がっちりした体格の大男に声をかけられた。年の頃30代半ばだろう、ペドロと名乗る彼は、近くで柔道を教えているという。キューバにもそんな職業があるのか、と少し興味が出たので、カメラを持つ手を休め少しばかり立ち話をした。柔道の師範とはいえ、社会主義の元では報酬を自分で決められるわけではなく、月収は皆と同じ20ドル(2000円強)ほどだという。ホテルの前で待機するタクシーや、大通りを行き交う外国人を眺めながら彼が言った。

 「観光客相手の仕事はましだよ。チップが入るし。米ドルが手に入ることもある。だけど僕らのようなその他の市民は暮らしていくのが大変だ。いつか日本に行きたいけどね」

 ひとしきり話して僕がまた撮影に戻ろうとすると、ペドロが誘ってきた。

 「すぐそこの角に、いい葉巻が安く買える店があるよ」

 キューバの特産といえば葉巻(シガー)だ。僕も自分では吸わないが土産に数本買って帰ろうと思っていた。しかしブランドものになると結構高くて、1本3000円するものもある。ペドロは、シガーショップよりずっと安く買える店がある、というのだ。こういう話は得てして胡散臭い。撮影中だったし、だいたい自分には葉巻の良し悪しなど区別がつかないから遠慮しておいた。今思えば、騙されるのを承知で数本でも買っておけば、ペドロにも幾分コミッションが入ったのかもしれない。親日柔道家の家計の足しになれなくて悪かったかな。

(文・写真:高橋邦典 2017年2月撮影)

※この記事はフォトジャーナル<変貌する社会主義国キューバ>- 高橋邦典 第52回」の一部を抜粋したものです。

フォトジャーナル<変貌する社会主義国キューバ>- 高橋邦典 第52回

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