渦中の栄希和は涙の勝利を挙げた(写真・アフロ)

4年ぶりに日本(群馬県・高崎市)で17日に開幕した女子レスリングのワールドカップは大混乱していた。日本は通算10回目、4連覇を目指して進むだけだったが、五輪4連覇の伊調馨(33、ALSOK)に対する協会幹部、なかでも栄和人・強化本部長(57)からのパワハラ告発が報じられて以降、選手も指導者も、マットの上だけに集中するのが難しい状況での大会となった。高崎アリーナには、クレームの電話が殺到。報道陣に対しては、「取材対応するコーチスタッフや選手は限られます」と告知されていた。
 特に65kg級の2番手選手としてエントリーされた栄和人の娘である栄希和(24、ジェイテクト)を巡り、情実によって選出されたのではないかとの憶測が大きく報じられた影響が大きかった。

「(一連の報道の)影響は、あったと思います。でも、わたしたち(コーチスタッフ)が気にしてしまうと、選手たちも気にしてしまう。だから、とにかく試合にだけ、勝つことだけに気持ちを集中するように心がけました」

 女子レスリングワールドカップ(国別対抗団体戦)1日目のすべての試合が終わり、決勝進出が決まったあと、休養をとってスタッフから外れた栄和人氏に代わり日本女子代表をまとめる役をつとめた笹山秀雄監督は、自分の気持ちに添う言葉を探すようにゆっくりと、こう振り返った。

 パワハラ告発以降、代表選考に情実が持ち込まれているとの憶測がたびたび取り上げられた。そのうちのひとつが、2017年全日本選手権で女子65kg級5位の栄希和が、2018年ワールドカップに日本代表としてエントリーされたことだった。彼女が、栄和人氏の娘であるために選ばれたのだろうという憶測が報じられた。

 この憶測がまるで事実であるかのように流布してしまったのには、代表選手発表時に、なぜその選手が選ばれたのかを説明する習慣がないことにも原因がある。だが、今大会に、5位の栄希和が選ばれたことには根拠があった。

 2017年全日本選手権で女子65kg級優勝は、今回のワールドカップで同階級一番手として出場している源平彩南(21、至学館大学)だ。そして全日本2位の森川美和(18、安部学院高等学校)は一階級上、68kg級の2番手に名を連ねている。

 1位にリオ五輪金の土性沙羅(23、東新住建)がいる68kg級は、全日本選手権ではたった4選手しか出場しなかったため、残念だがあまりレベルが高くない争いになっていた。もし土性がケガなどで試合に出られなくなった場合、65kg級で2番手の選手のほうが国際大会では勝負になると判断され、階級変更してのエントリーとなった。
 実際に、2試合目のカナダ戦の途中で左肩に違和感をおぼえ、腕が十分に上がらなくなった土性に代わって森川はアメリカ戦に出場した。

 では、65kg級3位の今井海優(19、自衛隊)と榎本美鈴(20、環太平洋大)はどうか。もし、ワールドカップの開催場所が日本でなかったら、若手育成の意味も込めて、彼女たちが選ばれていたかもしれない。だが今回は地元開催のため、より確実に海外の選手と戦える選手を選ぶ必要に迫られていた。その場合、世界レスリング連合(UWW)が指定する国際グランプリ大会のひとつ、今年1月のヤリギン国際大会で62kg級2位となった栄希和を2番手に選ぶこととなった。

 日本は女子レスリングの強国だが、60kg台中盤より重い階級については、海外の選手層が厚い。そのため、たとえ日本で表彰台に上がっていても、勝利の確実性は高まらない。どうしても勝ちたい日本チームが、2番手選手に、欧米の選手が多く出場し、高いレベルでしのぎを削る国際大会での結果を持つ栄希和を選ぶの
は自然な流れだった。

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