開幕が心配されたイチローが実戦復帰へ。意外性こそが流儀だ(写真・アフロ)

 オープン戦に初出場した11日(日本時間12日)のこと。初回、イチローが打席に入ると、一部でスタンディングオベーションが沸き起こり、方々から、掛け声が飛び交った。そのとき、打席のイチローは、少しはにかんでいるように映った。

「えっ、(スタンディングオベーションが)あったんですか? 見てないですがね。あっ、そう。へぇ〜」

 そんなふうにとぼけたイチローだったが、続けて感慨深げに言っている。

「アメリカの文化に“粋”というものがあまりないですけども、こういうのはそうですよね。それを選手側が感じないなんて、ありえない」

 “イ・チ・ロー!”というコールは、 ニューヨークでもマイアミでも耳にしたが、マリナーズファンによって刻まれるそれはどこか独特のリズム。懐かしさがこみ上げたのかもしれない。

 ところで、7日(同8日)のマリナーズ入団会見から、たった4日で試合に出たのには驚いたが、実はその2日前 ── 合流2日目には、ライブBPという練習で、昨季リーグ2位のホールドを記録したニック・ビンセントと対戦し、ヒット性の当たりを連発したことにも言葉を失った。

 もちろんオフは、神戸で練習を積んだ。5日(同6日)にシアトルに入り、身体検査が終わると、セーフコ・フィールドでも体を動かしたという。8日(同9日)の初練習後、「昨日も、その前も、(アリゾナの)違う場所で動いていた」と話したイチロー。内容は、「走る、キャッチボール、打つ、投げる、全部」だったそうだが、大リーガーの球には当然ながら、まだ目が慣れていない。

 マウンドのビンセントもリハビリ中とはいえ、イチローがメジャーの球を見るのは、昨季の最終戦以来。そういう状況で、いとも簡単に弾き返す。初練習の後、「今日プレーしろ、と言われれば、出来ますよ」と言ってのけたのは、見栄でも何でもなかった。

 そうして始まったオープン戦。まだヒットはないが、実戦でなければ出来ない、ということが当然あり、初戦の試合後、「とりあえず今日で、ずっと上がったはずですから。感触が」と話し、続けた。「練習をいくら重ねても限界があるので、今日でその感触的には、うん。次元がぜんぜん違う、昨日までとはね」。

 ボールを見る、という行為一つとっても収穫があったよう。

「あれだけボール見られないですよ。打ちにいって見られない。見ようと思ったら、見ることは出来ますがね」

 どういうことか。

「振らないと決めていたら、(ボールを)見られるけど。振りにいって(バットを)止めてるから。そこはぜんぜん違う」

 “足”でも、実戦でしか出来ないことが、早速巡ってきた。12日のナイターでは四回、四球で歩くと、直後のジーン・セグラが右翼ポール際に長打を放った。イチローは、二塁、三塁を蹴り、一気にホームへ。すると試合後、イチローは「ああいうのは、助かる」と話した。

「足が一番(仕上がりが)遅いですからね。ベースランニング(の練習)をやっても、ゲームとはぜんぜん違うのでね」

 実戦でもなかなかああいうチャンスはない。早い段階で、スピードの感覚、判断力など、それを確かめる機会が巡ってきた。ただ、スピードそのものは、「ちょっとまだ、重い感じがする」とイチロー。そして、必要なものをこう説明した。

「推進力がなかなか出てくれないというか、足を使おうとしてしまうんですよね。足を使わないで、前に進む感覚が欲しい。それが出るまで、ちょっと時間がかかる」
 

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