写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 連合が16 日に発表した春闘の「第一回回答集計結果」によると、賃上げ率は前年比+2.16%(17年+1.98%)と なり、そのうちベアは+0.77%(+0.48%)と昨年から大幅に加速。双方とも 1990 年代終盤と同程度の伸び率となりました。企業収益が過去最高を更新する下、労働需給の逼迫を背景に、企業が賃上げを進めている様子が見て取れます。ベアと連動性の強い一般労働者(≒正社員)の所定内給与は0%台後半に伸びを高めると予想されます。こうした賃上げ機運の高まりは、賃金から物価への波及メカニズムを渇望する日銀にとって、朗報となったに違いないでしょう。

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賃上げは順調

 ここで厚生労働省が公表している「賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」で企業側のスタンスを確認すると、直近(16-17 年度平均)は「企業の業績」の存在感が薄れるなかで「労働力の確保・定着」の割合が高まっており、賃金の決定要素が「業績から人手不足感」に移行している様子が窺えます。生産年齢人口の減少を背景とした構造的人手不足に直面している現状に鑑みると、労働需給の逼迫は景気循環に(2000 年代半ば頃との比較で)さほど関係なく続く可能性があり、このことはデフレ経済に逆戻りするリスクを軽減していると言えます。これも日銀にとって喜ばしいデータでしょう。

 一方で日銀にとって都合の悪いデータもあります。それは賃金改定にあたり最も重視した要素で「物価の動向」を選択した企業の割合が 0.1%に過ぎないことです。企業の業績 (55.0%)に比べて圧倒的に低く、11 ある選択肢のなかで断トツの最下位です。

 時系列データでみると、かつて日本経済が物価上昇に直面していた頃は「物価の動向」を重視した割合が高く、労働者の生活水準を確保すべく企業が物価から賃金を決定していた姿が映し出されていますが、デフレに直面した90年代後半以降は、その必要性が低下しています。当時と比べ「物価→賃金」という因果関係が希薄化している可能性が高いでしょう。

 実際、消費税込みの消費者物価上昇率が2%を明確に超えた2014年度ですら「物価の動向」を選択した企業の割合は1.2%に過ぎません。これは、日銀が考えているほど現実の物価上昇が賃金の決定や人々の予想インフレ率形成にとって重要な要素ではないことを物語っています。日銀は、これまで円安などで物価を上げればそれに応じて人々の予想インフレ率が上向き、現実の物価上昇率も高まるとの見通しを示してきましたが、少なくとも現在の日本経済においてその説明は説得力に欠ける印象です。

 このように「物価」と「賃金」の因果関係においてどちらが「先」であるかはまだまだ議論の余地がありますが、ともあれ、賃金上昇圧力が強まってきたことは素直に望ましい現象と捉えてよいでしょう。デフレ脱却がより確かなものになっているとの認識で問題ないと思われます。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

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