幸運なことに筆者はこの時代に生を受けた。ITは間違いなく障がい者の武器だ。一昔前に生まれていたら、"寝たきり社長"ではなく、"ただの寝たきり"だったはずだ。この時代に生まれてきたおかげで、まったく別の人生を歩んでいる。

筆者が使っている右手用のトラックボールマウス。父が作ってくれた。

 繰り返しになるが、筆者は体の自由がほとんど利かない。もしITがない時代に生きていたら、ただ毎日、寝たままの生活を送り、何もすることのない日常を過ごしていただろう。もしかしたら、何もすることのできない自分に嫌気が差し、今とは真逆で、内向的な性格になっていたかもしれない。おそらく、寝たきりの筆者が働ける可能性は、万に一つもないだろうし、当然、社長になるなんてことも不可能だっただろう。きっと、テレビやラジオをぼーっと見聞きしているだけの日々だったに違いない。

 ITは筆者にとって体の一部だ。ITがなければ、今のような生活は絶対に送れない。これはパソコンというハードウエアだけではなくて、インターネットが必要だ。ITのツールは、インターネットがあってこそのもの。車があってもガソリンがないと動かないのと同じで、インターネットにつながっていないパソコンだけでは、自由に動き回ることができない。

 障がいの度合いによって、人ごとに必要となる機器が違ってくる。身体障がい者に限定した場合でも、身体の動く部位や可動域などに個体差がある。自分の障がいをとことん理解することで、自分にあったITツールを見つけられるだろう。

 筆者の場合、話すことはできるが、動くのはわずかに右手と左手の親指だけだ。僕の体に合わせて、父親が入力デバイスを作ってくれた。右の親指でトラックボールを操作し、左の親指で左クリックボタンを押している。そして、最近では視線入力という装置を活用し始め、タイピングの高速化も図っている。

 IT機器は高いが、価格は年々リーズナブルになっている。視線入力機器の場合、10年前までは数百万円していたものが、今では数万円程度で、しかも、アマゾンで買えるぐらいお手軽になった。

 こうした機器のおかげで、原稿を書くのは、想像するほど大変なわけではない。確かにブラインドタッチのように速いわけではないが、今のパソコンの予測変換機能や学習機能は大したもので、「さ」と入れれば「佐藤仙務」が候補にあがってくるなど、自分がよく使う単語はもちろん、辞書登録していない言葉まで候補に出てくる。

 お気に入りは、インターネットで無料提供されているGoogle日本語入力だ。一度これを使うと、ほかの入力ソフトは使えない。慣れない高齢者がキーボードを打つスピードより速いだろう。

 日々の営業活動にSNSを活用したり、打ち合わせや商談ではビデオチャットを使ったりしている。「会社の預金管理や請求書の郵送はどうしてるの?」と聞かれることもあるが、インターネットの普及は、業務のアウトソーシングサービス化を加速させた。ネットバンキングやクラウドサービスを使って、文字通り、寝ながらでも仕事ができてしまうのだ。

 もはや、パソコンの向こう側にいる人たちは、筆者が障がい者だとは気付かないだろう。

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