帰ってきた激闘王・八重樫。だが、内容にはまだ?がつく(写真・山口裕朗)

 プロボクシングの元世界3階級王者の八重樫東(35、大橋)が26日、後楽園ホールで行われたスーパーフライ級10回戦でインドネシア・フライ級王者のフランス・ダムール・パルー(34 、インドネシア)を2回2分24秒TKOで倒して10か月ぶりの再起戦を飾った。だが、八重樫本来の動きは見られず本人は反省の弁。大橋秀行会長も、4階級制覇を狙うはずだったスーパーフライ級からフライ級に八重樫の今後のターゲットを変更する可能性があることも示唆した。35歳。一度は引退も考えた“激闘王”の崖っぷちは続く。メインではロンドン五輪銅メダリストのOPBF東洋太平洋フェザー級王者の清水聡(32、大橋)が同級11位のグォン・ギョンミン(25、韓国)を8回1分6秒TKOで下しV2に成功した。清水には年内世界挑戦へGOサインが出された。

 これが深層心理に染み込んだトラウマなのだろう。八重樫の体が動かない。インドネシアのローカル王者レベルのいらないパンチを被弾した。「心配になった」という大橋会長が、「足を使え!足!」と指示。フットワークを使うが下がるからリズムもバランスも取り戻せない。ボディに小刻みなパンチを集めるも、どこか恐々だった。

「1ラウンドでKO負けした次の試合というのは最初が怖いんだ」

 大橋会長には、八重樫が動けなかった理由が手にとるようにわかった。
 2017年5月21日、有明コロシアムで暫定王者のミラン・メリンドとIBF世界ライトフライ級王座統一戦を戦い、1回、衝撃のTKO負けでキャンバスに散った。植え付けられた恐怖が八重樫を凍りつかせたのか。

「八重樫はもう終わったんだ、というような声を見返したかった」

 焦りがあった。
 本当は練習してきた出入りのボクシングを試したかったが、得意の殴り合いを仕掛けた。

 インファイトならいつでもできる自負はある。距離を詰め接近戦を挑んだ八重樫が、ボディやアッパーをコツコツと当てながらダメージを与え右をブンとふると、パルーはリングに手をついた。一度目のダウン。スリップをアピールして立ち上がってきたが、今度は左フックで正真正銘のダウン。エプロンから落ちそうになるくらいの威力だった。再びパルーはKO負けを拒否したが、左のボディブローが炸裂すると3度目のダウンにレフェリーが試合を止めた。

 後楽園ホールが「アキラコール」で沸く。激闘王の戦いには変わらずファンを引きつける魅力があった。いつものように顔が腫れていないから表情がよくわかる。しかし、心も晴れていなかった。

 リング上でアナウンサーから「お帰りなさい!」と振られると、「半分くらい帰ってきました」と、冗談半分、本気半分で返した。

「ダメでしょう。やってきたことが何もできなかった。自分にガッカリというか……情けない。なんでだろう。僕は自分を過大評価するほうじゃないんですが、もっとできる、もっと動けると自分に期待していたんですけどね。緊張もしていたんでしょうか。バランスを崩し力むというパターン。手ごたえ?スカスカです」
 
 ホールの下の階にある控え室で八重樫は「はあ」「うーん」と何度もタメ息のような声を漏らした。
 
 求めているのは20勝(12KO)18敗2分の戦績のインドネシア人を相手にしての勝利ではない。「自分勝手に動いて納得のいくボクシング」である。再び世界へ行くためにやるべきこと、やりたいことが、何ひとつできなかった。

 2階級を上げて減量苦からは解放された。だが、そのプラス面が動きに反映されず、ライトフライ級では群を抜いていたパワーも、スーパーフライ級では、まだ中途半端。

「まだスーパーフライではない。もっと高めていかなければスーパーフライと言っちゃいけない」
 八重樫も自虐的だ。
 世界再挑戦の5文字も「何も見えない」という。