人類の良き友人イエイヌですが、中には飼い主を悩ませる習性をもつものもいるようです。例えば、路上などに落ちたほかのイヌの糞を食べてしまうという行為。この理解しがたい食習性の謎について、イエイヌ進化研究による新たな論文が発表されました。古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が報告します。


オオカミとイヌの微妙な関係

非常に身近なイエイヌ達。しかし我々現代人とこうして共存するまでには、かなり複雑な進化の道のりをたどってきた。その詳細なプロセスには解き明かされていない様々な謎がたくさん潜んでいる。写真提供:筆者(本文の内容とは関連なし)

 今回は戌(いぬ)年シリーズ第2弾(第1弾はこちら)。先日非常に興味深いタイトルのイヌの行動と進化に関する論文を見かけた(Hart等2018)。
 ―Hart, B. L., L. A. Hart, et al. (2018) "The paradox of canine conspecific coprophagy." Veterinary Medicine and Science: https://doi.org/10.1002/vms3.92 http://onlinelibrary.wiley.com/wol1/doi/10.1002/vms3.92/abstract

 この内容に踏み入る前にあえて但し書きを一つ。お食事中の方、今回は少し気をつけてください。少し臭(にお)いのするストーリーです。それほど強烈なものではありません。ただもし必要なら食後に是非またこのページに戻ってきてください(念のために)。

 ワンワン達の中には、時々、他のイヌの残していった「落とし物」(=朝食後、裏庭や公園の芝生などにおいてよく見られる例の固形物質)を、堂々と人目をはばかることなく食す輩(やから)がいる。長年イヌを何匹か飼った経験のある方なら、「ああなるほど」「あるある」と思い当たることがあるのではないだろうか。

 「どうしてまたそんなものを?」。ついさっき、とっておきのドッグフードに豚汁の残りを混ぜた特製の朝食をあげたばかりなのに。そんな飼い主の嘆きにも似た声が聞こえてきそうだ。

 この論文は、「どうしてイヌ達がそんな食習性または行動パターンを行うのか?」このナチュラル・サイエンス史に燦然と輝く一大ミステリーに迫っている(大げさだ)。

 正直に開き直って打ち明ける。こうしたタイトルやテーマの論文を見かけると、私の好奇心の虫が、またむくむくと性懲りもなく顔を見せはじめる。少なくとも生物進化の複雑さを少し変わった角度から眺めることができるかもしれない。

 さてこのイヌの食習性の研究と特にその結論(=この行動の原因)に踏み入る前に、どのような説明がこれまでに一般に出されているのか、まず大まかに並べてみたい。

 Googleでこの奇妙な食習性について検索してみた(「Why dog eats poop?」でサーチ)。するとなんと130万件以上の記事がヒットした。もしかすると私が想像するよりはるかに多くのイヌのオーナーがこの問題に直面しているのかもしれない。

 その中からこの奇妙な行動の原因(=仮説)とされるものを、いくつかかいつまんで挙げてみる。「空腹」「特定の栄養分の摂取」「ストレス」「住みかの清掃(特に母親イヌ)」「消化の手助け(注:すでに一度体内を通過している)」「暇つぶし」「飼い主の注意をひきつける」などが広く考えられているようだ。(こちらのpetMDという英語のサイト参照。)
 ―https://www.petmd.com/dog/puppycenter/health/evrdgwhydopuppieseatpoop

 しかし私の知る限り、こうした仮説のほとんどは今のところ科学的なデータによってしっかり検証されているわけではないようだ。何の証拠にも基づかない単なる推測や思い付きのようなアイデアさえ混じっているかもしれない。そしてこの行動の原因が、一つではなく複数の要因がからみあっている可能性もあるだろう。

 もしかすると、なかなか一筋縄で解決とはいかないものなのかもしれない。