東京都の多摩市長選挙にAI候補を名乗る人物が出馬して話題となりました。結果は最下位と惨敗でしたが、こうした動きが出てきたことは注目に値します。あまり声高には議論されていませんが、もっともAI化に向いているのは行政組織であり、AIが本格的に普及すれば、公務員の大半が不要となる可能性が高いからです。

松田道人さんのツイッター

 市長選に出馬したのは、松田道人さん(44)で、20年ほどIT業界で働いてきた経歴を持っています。市長選ではこうしたキャリアを生かし、行政へのAI導入を訴えました。具体的にはAIによる予算編成や、独自の仮想通貨の発行、自動運転の推進、AI市長によるチャット相談などです。選挙ポスターも本人の顔写真は掲載せず、ロボットのイラストにするといった徹底ぶりでした。

 残念ながら選挙結果は最下位でしたが、投票者のうち約10%の票を獲得するなど、無名の新人候補としては健闘したといってよいでしょう。

 選挙期間中から松田氏については「AIが市長に立候補した」とネット上では話題になっていましたし、一部からは、奇をてらった話題先行の候補と冷ややかな見方も出ていました。しかし松田氏の問いかけは実はかなり核心を突いているともいえます。なぜなら数ある仕事の中で、行政の仕事はもっともAI化に向いているからです。

 AI化がもっとも進みやすいのは、人件費が高く、業務内容が定型化されているものです。昨年末、メガバンク3行が大規模な業務の自動化とそれに伴う人員削減策を発表して大きな話題となりました。日本の民間企業で真っ先に銀行が業務の自動化に乗り出したのは、先ほどのAI化の条件を銀行がもっとも満たしているからです。銀行マンは高給で知られていますし、銀行業務の大半はルーティンワークです。

 実は銀行以上にこの条件にあてはまるのが行政です。行政の仕事はその性質上、すべて法律に基づいている必要があり、具体的な業務の手続きにも統一規則が存在します。かつて公務員は安月給の象徴でしたが、賃金が大幅に低下している日本においては、公務員はもはや高額所得者です。行政に本格的にAIを導入すれば、大半の仕事は機械化できてしまうでしょう。

 しかしながら行政の仕事にも、機械化できない部分はあります。介護や福祉といった社会保障に関する分野は、臨機応変な対応が求められますから、人間力が必要となります。一般的な行政の業務を徹底的に自動化し、あまった人材を社会保障の現場に投入すれば、福祉の質も向上します。AI候補の登場は、こうした時代が着々と近づいていることを象徴しているのかもしれません。

(The Capital Tribune Japan)