非正規社員の待遇を向上させる代わりに、正社員の待遇を引き下げるという日本郵政グループの決断が大きな話題となっています。これまで正社員の待遇は、一種の聖域として死守されていましたが、何が起こっているのでしょうか。

写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ

 日本郵政グループは、正社員のうち約5000人が受け取っている住宅手当を段階的に廃止し、一方、非正規社員には、これまで認められていなかった一部の手当を支給することを決定しました。日本では正社員と非正規社員の間には、身分格差ともいわれるほどの待遇差があり、これを是正するため、同一労働、同一賃金に関する議論が行われてきました。しかしながら、この議論は、基本的に非正規社員の待遇を上げることが話の大前提となっており、これを実施すると企業の総人件費が大幅に増大します。このため議論はされるものの、なかなか実現しないという状況が続いていたわけです。

 今回の決定は、正社員の待遇を引き下げ、これを非正規社員の待遇向上の原資にするという施策ですから、従来とは正反対の考え方に立脚しています。しかも、今回の決定は会社が一方的に行ったものではなく、組合も決定を受け入れているという点が極めて重要です。

 当初、組合側は非正規社員の待遇向上を春闘で要求していましたが、会社側はそれを受け入れる代わりに待遇引き下げを提案。組合側も了承したと報道されています。これは正社員の待遇維持に必死になっていた従来の組合では考えられない決定といえます。逆にいえば、会社の状況が切迫しており、組合側も受け入れざるを得ないというのが現実のようです。会社側は正社員の待遇を引き下げることを狙ったものではないとしていますが、今後、こうした動きは徐々に各社にひろがっていく可能性は高いでしょう。

 日本の大企業は終身雇用が大前提となっており、総人件費を削減することが難しい状況にあります。一方、労働市場は空前の人手不足となっており、より高い条件を提示しないと非正規社員を募集することができません。総人件費が増大している以上、どこかを削って費用を捻出するよりほかなく、その対象が正社員の給料というわけです。

 終身雇用という制度を維持する限り、今後、こうした状況が長期にわたって継続することになります。昇給の抑制や手当の削減など、マイルドな形で正社員の待遇を引き下げていく動きがさらに活発になると考えられます。

(The Capital Tribune Japan)