IBF世界Sウェルター級2位決定戦に勝った井上岳志(左)を40歳の野中悠樹(右)が称えた(写真・山口裕朗)

プロボクシングのIBF世界スーパーウェルター級の2位決定戦が26日、後楽園ホールで行われ、同級9位でOPBF東洋太平洋&WBOアジアパシフィック同級王者の井上岳志(28、ワールドスポーツ)が、同級11位で元日本、元OPBF東洋太平洋同級王者の野中悠樹(40、井岡弘樹ジム)を3-0の判定で下した。井上は同級1位のジュリアン・ウィリアムズ(米国)との世界挑戦者決定戦に進むことになった。井上は、野中の老獪なテクニックに苦労したが、持ち前のパワーとジャッジへの好印象を与えた右フックの効果打で序盤から確実にポイントを重ねた。この試合に進退をかけていた野中は終盤に盛り返す執念を見せて観客を沸かせた。

 両者流血の激闘になった。世界前哨戦に失敗した40歳と、3冠奪取で勢いに乗る28歳。この年の差対決が最終ラウンドまでもつれることになると誰が予想できただろう。
 井上は常識外れの40歳に慄いていた。
「消耗しないので驚いた。息が荒くならないんです」
 28歳のボクサーは序盤からプレッシャーをかけた。
 サウスポーで長身の野中を無駄に追いかけないように細かいステップで常に正対のポジションを維持しながら突っ込んだ。左ジャブから入って鈍い音を放つ右フック。或いは「ロケット」と称するノーモーションで飛び込んでいく右のストレート。ガードを固め頭をふりながら強引に右のボディ。工夫をしながら突破口を開いていく。肉弾戦になると離れ際に強いパンチを浴びせるが、野中は絶妙のボディコントロールでダメージを逃がす。
 40歳の年齢から考え終盤には必ず落ちると踏んでいた野中の“デッドラインがなかなかやってこない。それは最後までやってくることはないのだが。 序盤は足を使い右の多彩なリードでリズムを作り、中盤は体力を温存するため足を止め、井上の入り際に左のアッパーやボディブロー、視界の外から飛んでくるようなフックをカウンターで合わせてくるのだ。3分間のマネジメントも巧みだった。うまくパンチをまとめて“野中の時間”を作る。4、5ラウンドは野中が取った。13戦の井上が43戦の野中のキャリアの罠から抜け出せない。
 
 それでも野中は両目をカット。7ラウンドには井上の太い腕から繰り出されるブンと音がするような右フックにグラっと上体を傾けた。だが、窮地になると「来いや!」と吼えて目をむく。
 井上も負けじと「ニヤッ」と笑い応戦。
 「パンチには一応、手ごたえがあったんです」
 感触があっても野中の戦意を折ることはできない。いや、殴られるほどに、なお、盛んに野中の内なる炎が燃え上がるのだ。井上が9ラウンドに左目をカットして視界が狭くなり「カウンターを警戒してしまって」動きが止まると野中が逆襲した。
 10ラウンドは3者、11ラウンドは2者が野中を支持。
 そして最終ラウンドである。
「カウンターをもらうリスクを考えると、いく必要はなかったかもしれないけれど、野中さんのこれがラストだという気持ちが伝わってきたんです。自分も出し切らなければ失礼だと」
 打ち合った。野中が最後の力を振り絞り、井上はロープにつめ渾身のフックを浴びせるが、そこでゴング。 井岡陣営の大阪弁の野次がかき消されるくらいにホールは熱狂した。