2016年に放映されたTVドラマ「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」の主人公は出版社の社員だったが、実は社員の校正・校閲者はまれな存在。大部分がフリーランスだ。

校正者は役目を終えたのか(1)右肩下がりの出版市場

「初心者は日本語の表記に気を取られがち」

講談社の校閲第二部。かすかに聞こえる筆記用具の音以外、物音はほとんど聞こえない(撮影:具志堅浩二)

 東京都文京区にある講談社は、誰もが知る日本を代表する出版社だ。1909(明治42)年、野間清治が設立した「大日本雄辯會」に起源を持つ。1933(昭和8)年に建てられた講談社本館(旧大日本雄辯會講談社)は、堂々とした名建築としても知られる。

 講談社H棟の12階。明るいフロアを見わたすと、多くの校正・校閲スタッフが見台に向かって、校正刷り、いわゆる「ゲラ」に目を走らせている。かすかに聞こえる筆記用具の音以外、物音はほとんど聞こえない。緊張感が伝わってきた。ここは同社の校閲第二部だ。

 同社の校正・校閲部門は現在、文芸書などフィクションを担当する校閲第一部と、週刊誌などノンフィクションを担当する校閲第二部に分かれている。両部で校正・校閲の仕事をする社員は47人。社員だけでは仕事がまかなえないため、フリーランスとして両部のフロアに常駐する校正・校閲者も91人いるという。

校閲第二部の奥野仁部長(撮影:具志堅浩二)

 編集総務局校閲第二部の奥野仁部長(46)は、「初心者の場合、日本語の表記にばかり気を取られる。そうすると、書かれている内容に整合性がないのに気づかず、逆に内容の整合性にとらわれると表記誤りを見落とす、ということが往々にしてある」と、この技能の難しさを語る。

 奥野部長は、1995年入社で今年24年目。校閲部門一筋でやってきた。大事なのは、文章のなかで間違っていそうなところに気づくセンスだ。そのセンスを磨くのが難しいのだという。「知識があるのと、実際にそれを使えるのとはまったく別。表記の知識はひと通り仕事をすれば身につくが、注意すべきポイントは、ほかにもいろいろある。校閲は、そう簡単に一人前になれない。昔は、10年やってもまだまだだ、と言われていた」と奥野部長は振り返った。

 奥野部長の例ではないが、「注意すべきポイント」というのは、たとえば、こういうことだ。原稿に「2009年9月のシルバーウィークの3連休」とあったとする。まずは、「ウイーク」なのか「ウィーク」なのか、表記に注意を向ける。次に、5連休の大型連休のことを「シルバーウィーク」というと一般的に定義されているのであれば、3連休ではシルバーウィークとは呼べない。さらに2009年9月の暦を調べると、実際は5連休だったので、「3連休」は誤りだったということになる。このように、気を配るべき注意点はいくつもある。