12年ぶりに復活勝利を手にした松坂が貫いたものとは?(写真資料・黒田史夫)

 中日の松坂大輔(37)が4241日ぶりとなる「特別なウイニングボール」を手にした。今季3度目の先発となった30日の横浜DeNA戦で6回を投げ8四死球と制球が乱れたものの3安打1失点と粘り、チームの連敗を4でストップ、NPBでは2006年9月19日のソフトバンク戦以来となる勝利を挙げた。NPBで109勝目、日米通算で165勝目となる復活の白星だった。

 GWにレジェンド。ナゴヤドームは今季最高の3万6606人のファンで膨れあがった。1球、1球のボルテージが上がったのが、3-0のリードで迎えた5回だった。松坂に12年ぶりの勝利投手の権利が入る大事なイニングであることを場内の誰もがわかっていた。
 だが、そうは簡単に、その権利を与えてはくれない。
 絶対絶命のピンチ。
 5回。3つの四球で一死満塁として、セの現在、最多本塁打のロペスを迎えた。外のカットで誘い、ロペスはバットの先。三塁へのゴロは福田永将から本塁へと渡り封殺した。続く打席には、ここまで2安打されている昨年の首位打者の宮崎敏郎である。
 松坂は厳しいコースをつきストレートで押し出しの四球を与えてしまう。2点差……。
 だが、これは計算ずくの四球だった。
 松坂の回想。
「ランナーを溜めて宮崎。最悪、ああいう形(押し出し四球)でも仕方がない。ああいう形の方が最少失点に終わるんじゃないか」
 ヒット、長打での大量失点よりも押し出し四球での1失点。松坂のキャリアが導いた究極の選択だった。
 続く梶谷隆幸には、外へチェンジアップを落とした。打ち気にはやる梶谷は、それをひっかけてファーストゴロ。1失点でピンチをしのぐ。
 そのコメントを試合後に聞いた森監督さえが「フォアボールの押し出しの1点より、打たれての2、3点(を避ける)。そういうのを考えられるのが他にいるか? 奴らしい」と感心した。
 松坂の勝てる投手の流儀だった。NPBで、数々のタイトルを獲得、メジャーでも世界一になった日米の20年に及ぶキャリアはダテじゃなかった。
 球数は100球に達していた。ベンチに帰ってきた松坂のところへ森監督がやってくる。
「もういいだろう?代わろう」
 過去2度の登板で好投しながら勝てなかったことへの森監督の「勝利投手の権利をもったまま代えたい」という温情采配だったが、松坂は続投を志願した。
「まだ投げたい気持ちがありましたし、投げることしか考えてなかったんです」
 森監督は5回裏に松坂の打席で代打を送らなかった。
 6回、また四球と振り逃げで走者を背負う。だが、二死一、二塁から大和をライトへの飛球。初めてライトの守備に入ったモヤの足がおぼつかず、ヒヤヒヤとさせたが、下がりながらキャッチ。その瞬間、松坂は天を仰ぎ、そして笑った。
 ベンチに帰ってきた松坂に再び森監督が、「もう一回いけ!」と声をかけると、今度は「もういいです」との返事が返ってきたという。
「行けと言えば逆を言う。そのへんが奴らしい。先発は5回でなく、120球近く投げねば、という考えが奴にはあるんだろうね。リリーフも使いたくないかも」
 森監督が松坂が持つ先発の美学を明らかにした。