日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。

 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。

 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

【写真特集】故郷内モンゴル消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第10回

競馬が終わり、顔を洗う少年。成績が悪かったので、プライドが傷ついた=シリンゴル盟・アバガ・ホショー(2012年7月撮影)

 写真家を目指してまもない頃、ナーダムを取材していたときのことだ。競馬が終わった後、会場の中を歩きながら撮影をしていると一人の子供と出会った。母親の隣りで顔を洗っていた。

 カメラを向けた瞬間に怒られた。

 まずいと思いながら母親に話を聞いた。実はその日の競馬の試合で、成績がかなり悪かったので、子供が落ち込んでいるという。10歳ぐらいだけれども、子供でも遊牧民の誇りを大切に持っていることが、私は嬉しかった。モンゴルの男性は、自分の馬がナーダムで良い成績を取ることを何より望み、それが一生の自慢になるからだ。

 昔は、一頭のいい馬を手に入れるため、財産を惜しまない人も多かった。どんどん子供たちが遊牧生活から離れていく中、彼のように競馬に乗って、自分たちの文化に誇りをもつ子供に出会ったことが嬉しかった。そして、表裏のない、正直で真っ直ぐな遊牧民の素朴さも伝わってきた。(つづく)

※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第10回」の一部を抜粋しました。

内モンゴル自治区の地図


アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA)
1977年 内モンゴル生まれ
2001年 来日
2013年 日本写真芸術専門学校卒業
国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。
主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。