韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が南北首脳会談で署名した「板門店(パンムンジョム)宣言」では、「完全な非核化」が特に注目されました。しかし、同宣言には、年内に朝鮮戦争の「終戦」を宣言することも盛り込まれています。このことが及ぼす考えられる影響にについて、元航空自衛隊幹部の数多久遠氏に寄稿してもらいました。

【写真】2018年 米国は北朝鮮を攻撃する? “第3の道”はあるのか?

[写真]「板門店宣言」に署名した文大統領(右)と金委員長の両首脳(代表撮影/ロイター/アフロ)

       ◇
 4月27日に板門店で行われた南北首脳会談において、完全な非核化と終戦を目指すことが宣言されました。非核化と終戦、どちらもインパクトのある言葉ですが、この二つのうち、「終戦」が日本にもたらすものが問題です。

 「終戦」は、朝鮮戦争の終戦を意味します。最近になって、やっと理解が広がってきましたが、朝鮮戦争は戦争の一時停止を意味する休戦が継続しているだけで、終結してはいません。

 この「終戦」は、二つのものをもたらすと考えます。「在韓米軍の撤退」と「拉致被害者の解放」です。

●在韓米軍の撤退

 朝鮮戦争は、北朝鮮による南進に始まりましたが、アメリカ軍・国連軍、そして中国とプレーヤーを増やし、1953年に署名された「休戦協定」は、国連軍と北朝鮮・中国軍との間の協定となっています。

 中国軍は、休戦の翌年に撤退を完了しています。「終戦」になれば、国連軍は韓国に駐留する理由、あるいは名目がなくなります。

 そして、国連軍とは、アメリカ軍とほぼ同義です。休戦の直後、アメリカと韓国は「米韓相互防衛条約」(1953年)を結んでいるため、国連軍の駐留理由がなくなったからといって、在韓米軍の駐留根拠、すなわち名目がなくなる訳ではありません。

 しかし今回の「終戦」宣言は、北朝鮮と韓国が、国連軍の駐留する意義をなくすと宣言したに等しいのです。名目はあっても意義がないのでは、勝手に居座っていると言われるでしょう。

 もともと韓国国内の反米(軍)感情は、日本の比ではありません。その原因は、北朝鮮による世論工作もありますが、韓国軍の指揮権がアメリカにあるなど、韓国がアメリカの植民地であるかのような関係にありました。冷戦中は仕方のないことと考えられていました。しかし、冷戦終結後には反米感情の下地となったのです。もしアメリカ軍が居座るとなれば、反米(軍)活動が活発化することは避けられません。

 一方で、アメリカ側も、韓国への駐留を維持したいとは、もはや考えていません。トランプ大統領による貿易赤字を理由とした撤退示唆は別としても、南北首脳会談を受け、マティス国防長官も在韓米軍撤退について「議論が可能である」と述べているように、北朝鮮の出方次第では撤退するつもりでいるのです。

 朝鮮戦争の休戦協定では、あくまで統一を求め休戦協定に加わることをしなかった韓国は休戦の当事者ではないため、「終戦」の協定あるいは条約がどのような形になるかはまだ見えません。

 しかし、休戦協定が結ばれた当時と比較すれば、韓国軍は非常に強化される一方で、在韓米軍は段階的な撤退により、現在は3万を割り込む数しか駐留していません。すでに南北対峙の主体は、韓国軍になっているのです。指揮統制権についても、平時の作戦統制権は1993年に韓国に移管され、戦時の作戦統制権についても、実施時期が延ばされているものの、既に予定された事態となっています。

 北朝鮮と韓国が「終戦」するとなれば、在韓米軍の撤退は確定と見るべきです。

 韓国内の保守派は、在韓米軍を必要だと考えていますが、文大統領が非常に高い支持率を得ているように、既に大勢には程遠い状態です。アメリカでも、共和・民主両党内に在韓米軍を維持すべきという主張はありますが、韓国内の反米感情や予算の問題などから、維持すべきと強硬に主張できる状態ではなくなってしまっています。