日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。その北に面し、同じモンゴル民族でつくるモンゴル国が独立国家であるのに対し、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれ、近年目覚しい経済発展を遂げています。しかし、その一方で、遊牧民としての生活や独自の文化、風土が失われてきているといいます。

 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録しようとシャッターを切り続けています。内モンゴルはどんなところで、どんな変化が起こっているのか。

 アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。

【写真特集】故郷内モンゴル消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第10回

廃校になったソムの小学校。数年前までは100人以上の学生で賑わっていた。廃墟になり、見栄えがよくないので、外観だけ塗装され、民族的な絵まで書かれていた=シリンゴル盟・シローンフブートチャガン・ホショー(2018年2月撮影)

 最近、よく考えることがある。社会は豊かになった。しかし、それでみんなは幸せなのかと……。

 特に子供たちのことがそうだ。田舎の学校が政府によって引き払われ、幼い時から両親から離れ、街の学校へ行く子供たちは、両親の愛を欲しがっているように思う。兄弟も離れ離れになってしまうことが、彼らの小さな心に影を落としているように感じる。

 地方政府も、この問題の重大性に気づいたようで、最近は幼稚園をつくるところも見られるようになった。子供たちが実家から近い幼稚園に通うことで、社会的な集団生活に慣れる一方、両親からの愛情を思う存分もらうことができ、すくすく育っていくと思う。

 近ごろは、伝統文化を守るいろいろな運動があって、小学校はシャー(羊のくるぶし骨)を使った遊びを教える特別授業を設けることもある。地方政府と学校、遊牧民が連携し、遊牧生活を体験できる拠点を田舎に作り、学生たちを休みの期間に連れてきて、伝統文化などを教えるようにもしている。

 内モンゴルの子供たちは、新しい時代に向かい、前の世代と異なる未来を目指しているようにみえる。彼らには遊牧民になる以外にも、たくさんの選択肢ができた。親たちもそれを望んでいる。これは時代の流れであり、個人の権利でもある。

 それでも、遊牧文化を守り、遊牧民として、誇り高く生きていく若者がわずかでも出てきてほしいと願わずにはいられない。

※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮る―アラタンホヤガ第10回」の一部を抜粋しました。

内モンゴル自治区の地図


アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA)
1977年 内モンゴル生まれ
2001年 来日
2013年 日本写真芸術専門学校卒業
国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。
主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。