撮影:高橋邦典

 昨年半ばに思うことあって、報道写真の世界から退くことになった。5年近くに渡って続けさせていただいたこの写真エッセイも、今回が最後。25年のキャリアの中、様々な国に足を運び、多くの人々と出会ってきた。最終回は、特に印象に残る経験をいくつか紹介したい。

フォトジャーナル<カメラマン人生25年を振り返って>- 高橋邦典 最終回

撮影:高橋邦典

 汚くて、貧しくて、裕福で、豪華で、無知で、遠慮なく、優しく、そして何でもありの国。それが僕が7年間住処としたインドだ。食品も含めた衛生状態は最悪のうえ、近年は公害もひどくなって、生活するのは楽ではない。しかし、カラフルで、人々のエネルギーに満ち溢れ、街を歩けば魅力的な光景に次々に出会える。そんな、カメラマンにとっては天国のような地でもあった。

 世界有数の金持ちの豪邸の側で、極貧一家8人が路上のテントで暮らすような、極端な貧富差。法的には廃止されたカースト制(身分制度)も、いまだに日常の暮らしに深く根付き、職業や結婚に大きな影響を及ぼす。

 こんな、パイ生地のように何層にもわたって入り組むインド社会に身をおいて感じたのは、この国がわかっていくほど、わからなくなる、ということだった。5年や10年住んだところで、インドの奥深さを本当に理解するのは難しい。逆に、多様で複雑な分だけ、それを全て飲み込んでしまうくらい懐の深い国でもある。柔軟性があるから、急速な経済発展や西欧化が進んでも、その良し悪しに関わらず、伝統や習慣が確固として保たれているのだろう。

 インドを訪れる人は、大嫌いで二度と行かないか、病みつきになるほど好きになる、に分かれるとよく言われるが、僕にとっては「大嫌いだけど、大好き」な国だった。
インドとは真逆ともいえる環境のカナダに居を移して1年半が過ぎた今、「大嫌いで大好きだった」国で過ごした年月が、まるで夢のように思えるときがある。

 ※この記事は「フォトジャーナル<カメラマン人生25年を振り返って>- 高橋邦典 最終回」の一部を抜粋したものです。