[写真]2017年3月、東京都が営業運行を開始した水素で走る燃料電池バス(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 「水素社会」実現のカギはアンモニアが握る?―― 水素社会とは、生活や産業に必要なエネルギー源を、文字通り「水素」に求めるものです。枯渇せず有害物質を出さない、そして持続可能な水素の特徴を利用して、クリーンな社会を目指そうというわけですが、その理想は、現状と大きくかけ離れていると思われるでしょう。

・現在の社会 … 石油、石炭、天然ガスなどの炭素ベースの化合物がエネルギー源
・水素社会 …「水素」がエネルギー源

 しかし、2017年にアンモニア研究が急発展したことで、現代社会と水素社会が、にわかにつながり始めたのです。

【図表】「再生エネルギー100%」実現性は? 本気で目指す企業と世界的な取り組み

アンモニアは水素の「担い手」

[図1]エネルギー源を「作る、貯める、運ぶ、使う」の4つの技術のイメージ

 水素社会の話のはずなのに、アンモニアがいきなり出てきて、面食らうかもしれません。アンモニアが注目された理由は、エネルギー源を「作る、貯める、運ぶ、使う」の4つの技術から見るとわかりやすくなります。

 それぞれの技術に対する水素とアンモニアの特徴を並べてみましょう。

[表]水素とアンモニアにおける4つの技術の現状

 表にあるように、分子の形を比べるとアンモニアは水素(H)をたくさん含んでいることが分かります。さらに、アンモニアはすでに社会で利用されているため、作る方法だけではなく、貯める方法や運ぶ方法も完成しています。

 つまり、アンモニアを水素の「担い手」とみなすと、これまでの技術を最大限利用することができるため水素社会実現の近道になるのです。

 しかし、なぜアンモニアの「作る、貯める、運ぶ」技術はこんなにも確立したのでしょう。

 この疑問の答えと、来るべき水素社会に向けて、2017年に大きく進展したアンモニアの「作る、使う」に関する革新的な成果を順に見てみましょう。

「作る」ことで変わった人間社会

[図2]窒素ガスを食べ物に変換できる「窒素固定菌」

 アンモニアとは、排せつ物にも含まれる“臭い物質”。元をたどると、それは空気中の窒素ガスからきています。私たち人間を含め、動植物は空気から窒素をそのまま取り込むことはできません。しかし、窒素はタンパク質やDNAなど体を作る上で必須の物質です。

 窒素ガスを食べ物に変換できる生き物は「窒素固定菌」という微生物に限られます。この微生物によって地球上の全生物が「生かされていた」のです。

 ただ上の文は「過去形」です。それは今や人間が空気中の窒素ガスからアンモニアや肥料を作り、食べ物を作っているからです。1913年に開発されたこの技術は「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれ、「空気からパンを作り出す方法」とも表現されました。産業革命後の人口爆発を支えた画期的な技術です。そうして、ハーバー・ボッシュ法は人類になくてはならない方法となり、アンモニアを貯める技術や運ぶ技術も同時に発展してきました。

 現代においても、全人類約70億人のうち、およそ半分の人の食べ物はハーバー・ボッシュ法によって作られている計算になります。こうしてアンモニアの大規模な「作る、貯める、運ぶ」技術が確立したのです。