撮影:高橋邦典

 昨年半ばに思うことあって、報道写真の世界から退くことになった。5年近くに渡って続けさせていただいたこの写真エッセイも、今回が最後。25年のキャリアの中、様々な国に足を運び、多くの人々と出会ってきた。最終回は、特に印象に残る経験をいくつか紹介したい。

フォト・ジャーナル <南アフリカ>- 高橋邦典 第23回

撮影:高橋邦典

 1994年5月、南アフリカの首都プレトリア。ネルソン・マンデラが大統領として就任の宣誓を行うと、会場の熱気は一気に高まった。黒い肌、白い肌、褐色の肌、集まった何十万という人々が手をとりあい、空高く突き出す。南アフリカがひとつになった瞬間だった。

 この年、南アフリカは混沌を極めていた。

 40年もの間続いた、政府による「合法的な」人種差別であるアパルトヘイト(人種隔離政策)。学校やレストラン、バスの席やトイレに至るまで白人用と黒人用に分けられ、異人種間の結婚など以ての外。この悪法についに終止符が打たれ、全人種が参加する統一選挙が迫っていたのだ。

 反アパルトヘイト運動のリーダーであり、政治犯として27年の獄中生活の末釈放された英雄的存在のネルソン・マンデラの圧勝が予想されていたが、それを認めたくない白人至上主義グループによる爆弾テロや、黒人間の政治抗争による死者が絶えなかった。

 まだ写真学校を卒業したばかりの駆け出しだった僕にとって、初めての国際大ニュースの取材だ。政治デモに銃撃戦、路上に放置された、まだ血も乾ききらない犠牲者たち。ベテラン・カメラマン達に助けられ、彼らから学びながら、飛ぶような毎日を過ごしていた。そして遂にマンデラの勝利が決まり、初の黒人大統領が誕生した。

 肌の色にかかわらず、手をとりあう群衆の姿にカメラを向けながら、僕は就任式会場の興奮に飲み込まれていた。長い苦節を経て、ようやく南アフリカがひとつになったのだ。歴史的瞬間に立ち会っているという感慨と、会場の高揚感に包まれて、不覚にも溢れ出てくる涙で、のぞいていたファインダーがみるみる曇っていった。

※この記事は「フォトジャーナル<カメラマン人生25年を振り返って>- 高橋邦典 最終回」の一部を抜粋したものです。

この記事が気に入ったら「いいね!」をお願いします