撮影:高橋邦典

 昨年半ばに思うことあって、報道写真の世界から退くことになった。5年近くに渡って続けさせていただいたこの写真エッセイも、今回が最後。25年のキャリアの中、様々な国に足を運び、多くの人々と出会ってきた。最終回は、特に印象に残る経験をいくつか紹介したい。

フォト・ジャーナル - 高橋邦典 第11回

撮影:高橋邦典

 ホームレスのコカイン中毒者だったジムと出会ったのは、僕がシカゴ・トリビューン紙のスタッフだった頃だ。イリノイ州北西部の工業の町ロックフォードで、彼は放置されていた貨物コンテナを寝床にガールフレンドと暮らしていた。無精髭に薄汚れた服とニット帽という、いかにもといういでたちの彼だったが、頭が切れて饒舌。自分のこともよく話してくれる上に人の話を聞くのもうまい。そんな彼に惹かれて、僕は機会あるごとにコンテナを訪れるようになった。数ヶ月後に不法侵入と窃盗で逮捕され、ジムは11カ月を刑務所で過ごすことになった。

 「これまで俺は麻薬中毒になっていると思ってたんだけど、本当は、ホームレスという生き方自体に中毒になっていたようだ」

 服役中の彼が言っていたように、一旦ホームレス生活の「気ままさ」に慣れてしまうと、そこから脱却するのは簡単ではない。麻薬中毒になっていればなおさらだ。

 釈放後、仕事に就き更生するかにみえたジムが姿をくらませた時、「やはり彼もか…」と僕は落胆した。2年間追い続け、本気で再生を図っているように見えた彼を応援していたので、裏切られたような気がしたのだ。

 それから5年ほど経ったある日、インドに居を移していた僕の元にフェイスブックの友達申請がきた。ジムからだった。僕は驚いたが、送ったメッセージが戻ってくることはなかった。

 ジムは今、いいパートナーに恵まれ、新たな人生を歩んでいるようだ。フェイスブックの近況も頻繁に更新するようになり、連絡もつきやすくなった。サイトのページの写真に写る、娘と孫に囲まれたジムの笑顔のはもう人のいい好々爺のようだ。

 いつかまた彼と会い、昔話に花を咲かせる。そんな時が来るのが楽しみでもある。

※この記事は「フォトジャーナル<カメラマン人生25年を振り返って>- 高橋邦典 最終回」の一部を抜粋したものです。