[写真]4月27日、南北首脳会談に臨んだ金正恩委員長(代表撮影/ロイター/アフロ)

 5月に入り、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談をめぐる情勢は目まぐるしく動いています。6月12日の会談開催が発表されたかと思えば、北朝鮮が拘束されていた米国人を解放。そして、アメリカの「イラン核合意」から離脱表明に、北朝鮮側の南北会談中止など。金委員長の2度目の電撃訪中も5月初旬でした。

 首脳会談の実施や成否にさまざまな臆測が出ている状況ですが、今後の見通しについて、日朝国交正常化交渉の日本政府代表を務めたこともある平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。

【写真】「完全な非核化」への視界は一段と明るく 南北首脳会談どう見る

米朝首脳会談は実施される?

 トランプ大統領は、史上初の米朝首脳会談を6月12日、シンガポールで行うと5月10日に発表しました。トランプ大統領と金正恩委員長が会談することについて原則的に合意してから約2か月間、世界は本当に実現するのかという気持ちをぬぐえないまま見守ってきましたが、正式の発表が行われたので、準備は最終段階に入ったとみられます。南北高官級会談の中止や北朝鮮の外務次官による対米批判もありますが、小競り合いであり、大筋には影響しないと思います。

 米朝両国とも会談実現に努力してきました。金委員長はほぼ一貫して、米国との対話を望んでいる、「非核化」にも応じる考えであることを示してきました。

 また、トランプ大統領もポンペオ国務長官を2回訪朝(3月30日および5月9日)させ、本気であることを示しました。北朝鮮に拘束されていた米国人3人が解放されたことも会談の正式決定に寄与したでしょう。

「非核化」「ミサイル」合意は?

 ただし、米朝首脳会談についての障害や不安定要因がすべて解消されたわけではなく、会談が実際に開催されるまで気を緩めることはできません。約70年前の朝鮮戦争以来敵対し合ってきた米国と北朝鮮の首脳が初めて会談するのですから、主張がぶつかり合わない方が不思議です。トランプ大統領と金委員長は「完全な非核化」では一致していても、核兵器放棄の期限、検証の在り方(不可逆性を含む)について明確に合意しなければなりません。要するに「完全かつ検証可能で不可逆的な核解体」(CVID=Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement)について合意することが必要ですが、実際にどのような言葉で合意するかは未定です。

 また、この他にも米朝首脳会談の開催・成功に影響を与え得る問題がいくつかあります。

 特にミサイルの扱いについて短期間で明確な合意に達することは困難だと思います。「核兵器」とは何か、意味ははっきりしていますが、「ミサイル」は種類が多すぎます。大陸間弾道弾(ICBM)だけでもいろいろな航続距離のものがあります。それと「人工衛星をミサイルとみなすか」という問題もあります。

 1990年代の後半に米朝両国はミサイル協議を数年かけて行いましたが、最終合意に至らないまま終わってしまいました。この経緯に照らしても、ミサイルについて短期間で結論を出すのは簡単でないことが分かるでしょう。

 今回の米朝会談では、ミサイルの問題については解決していないことを示すために、いわばパフォーマンス的に取り上げられるかもしれませんが、実際の言及は「今後の協議に委ねる」など暫定的な内容になると思います。

 ミサイルのほか、化学兵器と生物兵器についても北朝鮮に放棄を求めるべきだという意見が米国(の一部?)にあります。これらの問題も米国が固執すれば、首脳会談は結論を得られなくなる恐れがあります。

 同様の問題は、在韓米軍の撤退についてもあり、北朝鮮が強く要求すれば米朝交渉は行き詰まる危険があります。米国はあまりに性急な撤退は地域の安定に資さないと考えているからです。

 要するに、交渉の対象を増加すればするほど合意に達することは困難になるのです。