アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の首脳会談では「非核化」が大きなテーマになりますが、その際、議論に影を落とす可能性のある懸案があると、元外交官で日朝国交正常化交渉の日本政府代表を務めたこともある美根慶樹氏は指摘します。それは南北双方の「核の傘」の問題です。美根氏に寄稿してもらいました。

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「非核化」と「核の傘」

[写真]先月の南北首脳会談では「朝鮮半島の非核化」で合意した(代表撮影/ロイター/アフロ)

 6月12日にシンガポールで開催される米朝首脳会談において、北朝鮮の「完全な非核化」は実現するでしょうか。

 北朝鮮の金桂冠(キム・ケグァン)外務次官による「会談は中止されるかもしれない」との発言が波紋を呼びましたが、トランプ大統領は北朝鮮が非核化すれば、「米国は強い保護を与える。金委員長は今後も北朝鮮のリーダーであり続ける」と北朝鮮の立場に配慮した発言をし、米朝会談に向けて予定通り準備が進むとの見方を示しました。北朝鮮は核実験場の廃棄を発表通り、5月末に行うでしょう。その式典はいくつかの外国メディアにも公開されます。それに日本が入っていないのは、日本政府が「圧力」に偏った姿勢を取り続けていると不満に思っているからでしょう。

 しかし「非核化」の具体的な態様、範囲などはまだ明確になっていません。米国が求めているのは「北朝鮮の非核化」ですが、先月の南北首脳会談では「朝鮮半島の非核化」について協議が行われ、合意されました。

 「朝鮮半島の非核化」が議題になれば、北朝鮮だけでなく「韓国の非核化」も対象として取り上げられることになりますが、米国は冷戦終結後の1991年に韓国から核を撤去したので、「韓国の非核化」はすでに実現しており、もはや問題にならないと見られています。

韓国側の「核の傘」問題

 しかし、米国が韓国に与えている「核の傘」を、北朝鮮が問題にすると、厄介なことになります。「核の傘」は、実は南北双方にとって複雑な状況にあります。

 まず、韓国は必要な場合に米国が必ず核で守ってくれるのか、そもそも不安を抱えています。

 この問題は、両国間の同盟条約の文言に基本的な原因があります。すなわち「米韓相互防衛条約」第2条では、韓国はその防衛に米国の協力を得ることになっていますが、脅威が発生した場合は、まず米国と「協議」することになっており、米国が自動的に行動することにはなっていないのです。極端な場合を言えば、「協議」した結果、米国は韓国の防衛のために行動しないこともあり得るわけです。

 ちなみに、日米安保条約にも「協議」についての条項(第4条)がありますが、米国が防衛する義務は第5条で明確に規定されており、「協議」の結果、米国が行動しないことはあり得ません。

 韓国側では、北朝鮮が盛んに核・ミサイルの実験をするのに伴い、米国による防衛義務を強固にしたいという気持ちが強くなってきました。2016年5月には、米国に対して、核兵器の「共同管理」を要望し、同じ年の8月には、第三国からの核の脅威に「核の傘を必ず提供するという確実な保証」を求めましたが、米国はいずれの要望も断りました。

 核の「共同管理」は、米国が欧州諸国との間で部分的に行っていますが、それはロシアとの対抗上、欧州諸国が米国と対等の立場に立とうとするのをある程度認めざるを得ないNATO(北大西洋条約機構)の下で可能になったことであり、発言権の弱い韓国に米国が認めることはあり得ません。

 「核の傘を提供するという確実な保証」も、核をどのような場合に使用するかなどをできるだけあいまいにしておくという米国の政策に反するので、韓国の要望を断ったのはやむを得ないことでした。