向井理(撮影:志和浩司)

 向井理の主演ドラマ『そろばん侍 風の市兵衛』(NHK総合1、土曜よる6時05分)が19日からスタートした。清貧で無欲の侍が、得意のそろばんと風のようにしなやかな剣で悪を退治していく。知的でイケメンな向井の芝居も見ものだが、しっかりしたストーリー展開や配役の妙味など、ドラマとしての完成度の高さも評判だ。

【連載】新ドラマレビュー<18年春>

殺陣なし時代劇がトレンド 江戸時代の人間ドラマに焦点あてる

 ところで時代劇というと、以前は殺陣の場面が最大の見どころだった。いわゆるチャンバラで、やたら悪人たちをばっさりと斬って倒していくイメージだった。しかし実際には、戦国時代の気風が残っていた江戸時代初期ならともかく、市兵衛のころにはよほどのことがないかぎり街場で刀を抜いて振り回すことはなかったようで、相当な理由がなく人を切れば殺人であり、切腹になったという。従来の時代劇にありがちな“切り捨てごめん”はほぼフィクションといえる。日常的には、刀を使った犯罪より、お金の使い込みを隠蔽する経済犯などのほうが一般的だったのではないだろうか。そして娯楽である時代劇の世界でも、近年では“殺陣なし”時代劇の人気が高くなってきた。堺雅人主演の映画『武士の家計簿』(2010年)の大ヒットあたりから、殺陣を見どころとしない、裏方としての武士や人間ドラマに焦点をあてた時代劇の人気が定着してきた。

 今作は、そんな最新の時代劇のトレンドもしっかり取り入れつつ、「風の剣」と呼ばれる市兵衛の見事な殺陣場面も見どころだ。単に考証を正確に描くことを主眼にしているわけではなく、娯楽作として従来から時代劇が育んできた殺陣や謎解きといった要素をうまく盛り込んでいるのが大きな魅力となっている。そろばんと剣で、悪を退治していく痛快な展開は、同ドラマがうたう“新感覚時代劇”の本領だろう。

そろばん時々剣術の「渡り用人」が活躍する時代劇

 同作は2010年から2017年まで全20巻が刊行、第5回歴史時代作家クラブ賞のシリーズ賞を受賞し、その後、2018年から新シリーズ『風の市兵衛 弐』を刊行した時代小説作家、辻堂魁(つじどうかい)氏の作品をベースにドラマ化している。
 
 江戸時代後期の文政、町民文化が花開き豊かさを謳歌する一方で、武士の台所事情の逼迫は隠しようもなくなっていた。経済に疎い武家の家計はどこも火の車で、一方、消費の伸びで売上げを増やす商家の内側にも、私腹を肥やそうとする輩がうごめいていた。

 そんな時代の人々が頼ったのが、期間契約で家計を預かる「渡り用人」(現代に置き換えると会計士兼経営コンサルタント)だ。向井演じる主人公・唐木市兵衛は、筆頭目付の家に生まれながら家を出て上方に上り、あらゆる商売を経験してそろばんの技を身につけた渡り用人だが、実は剣の達人でもある。愛する者を守るときだけに抜くその剣は、人呼んで「風の剣」。その痛快な活躍を、3回をひとくくりとした見やすいサイズのストーリーで楽しめる。

 共演には、“鬼渋”とあだ名される北町奉行所の同心・渋井鬼三次をお笑いトリオ・ネプチューンの原田泰造が、さらには用人を斡旋する口入屋「宰領屋」の主人・矢藤太を渡辺いっけいが演じる。他には橋本マナミ、筒井道隆、加治将樹、内野謙太、山本千尋らが脇を固める。また、毎回のゲスト出演者も楽しみ。第1部「春の風」では村川絵梨、鈴木福、でんでん、鶴見辰吾。第2部以降も、高橋克実、小芝風花、前田亜季、川口覚らがドラマを彩る。

 次も観たい度 ★★★☆☆

(文:田村豊)