山下亀三郎、『沈みつ浮きつ』山下亀三郎著 四季社版

 山下財閥・山下汽船(現:商船三井)の祖、山下亀三郎の人生はその著書『浮きつ沈みつ』のタイトルそのものでした。海運業に進出するも、そうは簡単にうまくいきません。大失敗で「泥亀」というありがたくないニックネームをつけられてしまいます。まずは汚名返上、そして海運成金への道はどのように切り開かれていったのでしょうか? 市場経済研究所の鍋島高明さんが解説します。

  海運界に入った途端に大失敗 「泥亀」の汚名を頂戴する

  海運業は戦争のたびに大揺れに揺れる。大きく跳躍するチャンスであると同時に海底の藻くずと消え去るピンチと背中合わせにある。日本を代表する海運会社、東の日本郵船、西の大阪商船はともに荒波を乗り切って海運市場に君臨する。負けじ魂の塊のような山下だから、海運界に入った当初から、いずれは郵船、商船と勝負をしてみたいと思っていたに違いない。その突端で山下はつまずき、「泥亀」というありがたくないニックネームを頂戴することになるが、その一件とは――。

 日露戦争の勃発で山下の持ち船が海軍に徴用されるとの報に接し、喜び勇んだ山下は一番大切な荷主のことを考えずにおのが利益に目がくらむという“不始末”をしでかしたことだ。

 山下は大阪に向かい荷主の今西林三郎(郷里の先輩、当時大阪三品取引所理事長)と三井の大阪支店長に平身低頭、わびを入れる。

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