約6000万年前に出現したゾウの祖先は体が小さく、鼻も短かったとみられています。そのゾウがどのような進化をたどったのか、発掘された歯と見つかった地層の花粉を手掛かりにして、食性の変化に着目した最新研究が先月発表されました。

 古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が報告します。


鼻の短かったゾウの祖先

堂々とした体躯、長い鼻と象牙、そして大きな耳をもつアフリカ象。哺乳類の進化上でもユニークな存在であるゾウだが、果たしてどのようなプロセスを経て今日に至るのだろうか?(写真:アフロ)

 目の前の鼻が突然ニョキニョキと伸びだせば、それは腰を抜かすほど驚かずにはいられない。

 映画「ピノキオ」のこの一シーンを初めて見た時、誰もが思わずはっと息を止めて見入ってしまったのではないだろうか。1940年に製作されたこのディズニーの名作には、いまだに色あせない輝きがあるようだ。「嘘はつかないでおこう」と(一時だけでも)誓わずにはいられないパワーさえある。

 さてこの「鼻がニョキニョキと伸びる」という現象を、直接イメージとして抱くのは、ディズニーの映画製作スタッフだけの特典ではない。古生物学者も化石記録の中においてこうした光景を思い描く。

 例えば太古の昔、ゾウの祖先は「非常に短い鼻」をもっていたという事実をご存じだろうか? 長い鼻は斬新なマクロ進化の過程における産物なのだ。

 今から約6000万年前、ゾウの祖先にあたる種(例えばエリセリウムEritheriumGheerbrant 2009)は、ごく普通の(短い)鼻をもっていた。後にインド象やアフリカ象などの直系の子孫が、ピノキオ顔負けの長い鼻をもつなど夢にも思わなかったはずだ。

 ゾウの遠い祖先は体もかなり小さかった(体重推定値3―8kg)。インド象やアフリカ象のような立派な象牙を誇らしげに見せつけることもできなかった。あの大きな幌のような耳を夏の暑い日にばたつかせることも、太古の昔にはできなかったはずだ。

 ―Gheerbrant, Emmanuel. 2009. Paleocene emergence of elephant relatives and the rapid radiation of African ungulates. Proceedings of the National Academy of Sciences106: 10717-10721;  http://www.pnas.org/content/106/26/10717

 今回は最新の「化石種のゾウの研究」を紹介する。この論文(Wu等2018)はScientific Reportsというオンラインの学術雑誌に発表されたばかりだ(オープンアクセスなので誰でも閲覧可能)。研究チームのリーダーは中国科学院古脊椎動物古人類研究所のShi-Qi Wang(王世騏)博士(ゾウの化石種研究の専門家)。そしてイギリス・ブリストル大学で博士号課程に在籍するYan Wu研究員が論文の第一執筆者としてこの研究に携わっている。

 ―Yan Wu, Tao Deng, Yaowu Hu, Jiao Ma, Xinying Zhou, Limi Mao, Hanwen Zhang, Jie Ye, Shi-Qi Wang. 2018. A grazing Gomphotherium in Middle Miocene Central Asia, 10 million years prior to the origin of the Elephantidae. Scientific Reports 8 (1): https://www.nature.com/articles/s41598-018-25909-4

 Wu等(2018)は中国新疆ウイグル自治区のジュンガ-盆地(Junggar Basin:Dzungaria Basinとつづることもある)から発見された「ゴンフォテリウムGomphotherium」というゾウの化石骨格標本にもとづく研究をまとめた。この化石が発見された地層は中新世(Miocene)前半(約1600万年前)にあたる。

 先述したように、知られている限り最古のゾウの祖先は暁新世(Paleocene:約6600万年前―約5600万年)に見られる。そのためゾウの初期進化のプロセスを探るうえで、ゴンフォテリウムは貴重な情報をいろいろ与えてくれることが期待できる。

 ゴンフォテリウム属には15種ほどがおもに確認されている(Wang等2017による)(注:別の研究者によって他にもいくつかの種がいた可能性が指摘されている)。化石記録によるとその起源はアフリカと考えて間違いないようだ。しかしすぐに世界規模での放散を行った。化石は主に中央アジアや中国北西部から見つかるが、北米や西ヨーロッパなどからも発見されている。(こうした放散のタイミングは後述するように何らかの具体的な理由があるはずだ。)

 ―Wang, Shi-Qi, Yu Li, Jaroon Duangkrayom, Xiang-Wen Yang, Wen He, and Shan-Qin Chen. 2017. A new species of Gomphotherium (Proboscidea, Mammalia) from China and the evolution of Gomphotherium in Eurasia: Journal of Vertebrate Paleontology 37(3): e1318284. https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/02724634.2017.1318284?journalCode=ujvp20

 ゴンフォテリウム自体には、中新世から次の鮮新世(Pliocene)、そして更新世(Pleistocene)まで生き延びた個体もいたそうだ。ゴンフォテリウムの中で後半に登場したものは、マンモスや初期人類と直接顔を合わせたことがあったはずだ。

 ―人類の起源と初期進化の記事:https://thepage.jp/detail/20170613-00000009-wordleaf
 ―マンモスの記事:https://thepage.jp/detail/20170323-00000004-wordleaf