ジョン・ウィリアムズ次期NY連銀総裁(写真:ロイター/アフロ)

 6月連邦公開市場委員会(FOMC、6月12~13日)における追加利上げはほぼ確実とみられ、FFレートは2.00%へと引き上げが予想されます。根拠となる経済指標に目を向けると、5月の雇用統計では失業率が(少数点3位ベースで)1970年以降の最低に到達し、これまで不可解に弱かった平均時給に加速の兆候がみられました。企業景況感は日本や欧州の落ち込みをよそに米国は好調を維持しており、懸念事項であった低インフレは足元で解消に向かっています。

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 利上げがもはや確定事項である以上、6月FOMCでは将来の金融政策に関するメッセージに注目が集まるでしょう。特に注目すべきは現在のFF金利水準と「中立金利」の位置関係を連邦準備制度理事会(FRB)がどう認識しているかです。中立金利とは文字通り景気に中立的な金利で、FOMC参加者全体の意見としてはこれが3%程度であると見積もっています(図参照)。従ってFF金利の2%は、まだ金融緩和的という理解になります。

FRBの利上げの天井を読む上で“鍵”となるウィリアムズ総裁とアールスター

FRBメンバーが示した利上げ計画(3月時点)

 ただし、中立金利<≒自然利子率、アールスター(r*)>の研究で知られているジョン・ウィリアムズ次期NY連銀総裁(現在はサンフランシスコ連銀総裁)の推計によると、現在の中立金利は2.5%程度であるとされています。NY連銀総裁はFRBの中で、極めて重要かつ発言力の大きいポジションですから、ウィリアムズ総裁が2.5%と主張していることは重要な意味を持ちます。

 ここで5月に発表されたFOMC声明文に目を向けると「金融政策の運営姿勢は引き続き緩和的」との記載があります。これは1.75%というFF金利が金融緩和的であるとの認識で「中立金利」との間に相当な距離があることを示しています。つまりFFレートを2%に引き上げるのと同時に「緩和的」が削除・変更されれば、これはFFレートが中立金利に近づいたこと、すなわち利上げの終了が近くなったことを意味します。よって当該文章の修正に注目する必要があります。

 また、「FF金利は当面、長期的に到達すると見込まれる水準を下回るレベルで推移する可能性がある」との文章に変更が加えられるかも注目です。ここでいう「長期的に到達すると見込まれる水準」を中立金利と読み替え、それをウィリアムズ総裁の推計値である2.5%とすれば、そこまでの距離は僅か50bpです。こうした見方に従うと、この文章の賞味期限は近いでしょう。FRBは、中立金利以下の領域を「金融緩和的」、それ以上の領域を「金融引き締め的」と解釈して金融政策の舵取りを調整するわけですから、当該文書が削除されれば、それはやはり利上げの終了が近づきつつあることを意味していると考えられます。

 なお、上述のウィリアムズ総裁はFRB高官の中でも特に金融政策やマクロ経済の分析に精通しており、イエレン議長時代からその分析能力や政策提言が高く評価されています。ウィリアムズ総裁が中立金利を2.5%と推計しているという事実、そして政策金利の天井を予測するにあたってアールスターと呼ばれる実質中立金利(実質均衡金利)が鍵を握っていること、この2点を押えておきたいところです。

 そのうえで、利上げが米景気およびグローバルな金融市場に与える影響を考えてみたいと思います。FFレートが2.5%超の領域に達したとしても、直ちに米景気が減速するわけではありませんが、FF金利の引き上げが続き、現在の計画である2019年末:3.000%、2020年末:3.500%(図参照)を超えてくるようだと、やはり景気のオーバーキルを懸念せざるを得ません。

 そうした見方が、すでに債券市場における長短金利差縮小という形で現れていることからすると、これ以上の引き締め(計画の上方修正)はリスクアセットへの打撃が懸念されます。為替は判断が難しいですが、先進国通貨の円やユーロに対しては、米景気がピークアウトするとの見方からドル安要因として作用する可能性が高いように思えます。

(第一生命経済研究所・主任エコノミスト 藤代宏一)

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