いよいよ行われる米朝首脳会談の後には全く新しい安全保障環境が生まれる可能性がある。もちろん現時点でどんな結果になるかは全く分からないが、北朝鮮が大いに譲歩し、日本が望んでいる条件にうまく対応したような回答が来た場合のシナリオを想像してみる。(上智大学教授・前嶋和弘)

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日本が望む条件

[写真]4月に板門店で行われた南北首脳会談で笑顔を見せる金正恩委員長。米朝首脳会談で日本にとっての「満額回答」はあるか(代表撮影/ロイター/アフロ)

 日本が望む条件とは安倍晋三首相が繰り返し述べるように、「拉致・核・ミサイル」という3点セットに対する北朝鮮の満額回答である。拉致問題では生存者全員の帰国と物故者の詳細な調査。核では期限を切った完全な非核化。ミサイルでは長距離弾道弾だけでなく、日本を射程に収める中・短距離ミサイルの完全廃棄である。

 もちろんこの要求に対して北朝鮮からすぐには誠実な回答が来ると期待するのは甘すぎる。ただ、もし、この3点セットに近づくように北朝鮮が見せる度合いに応じて、全く新しい日朝関係も見えてくるだろう。

(1)北朝鮮という脅威の消滅

 もし、北朝鮮から核とミサイルがなくなれば、いうまでもなく北朝鮮からミサイルが飛んでくる可能性がなくなり、日本周辺の紛争のリスクが極めて減るのはいうまでもない。「Jアラート」(全国瞬時警報システム)が鳴り響いていた昨年までの状況に比べると、北朝鮮がらみの脅威がなくなるというのは、全く新しい世界となる。
 
 これは日本にとっては大きい。休戦状態だった朝鮮戦争が終わることで、米朝の国交が結ばれる場合、東アジアの冷戦構造が終結していく。

(2)「日中衝突」という次のリスク

 といっても、バラ色の世界だけでは全くない。北朝鮮が求める「朝鮮半島の非核化」には在韓米軍の撤退も含まれるというのが北朝鮮の狙いである。実際に「朝鮮戦争が終結」ということになれば、在韓米軍は対北朝鮮のためという存在意義がなくなるため、縮小をせざるを得ない。

 ただ、実際のところ、現在の在韓米軍の主な役割は中国対策の意味合いが強い。もし、在韓米軍が縮小されれば、その米軍の分を補うために、在日米軍の負担が大きくなるであろう。日本のホストネーションサポート(受け入れ国支援)の費用もさらなる上乗せが必要である。

 激しい軍拡が続く中国の今後を考えると、さらなる海洋進出が容易に想像される。そうなると、東アジアの地政学リスクの矛先は、「北朝鮮後」は尖閣をめぐる日中衝突の可能性に向いてしまう。尖閣が攻め込まれた場合、日米安保5条が適用され、「米中衝突」のリスクも高くなるかもしれない。

 それもあって在韓米軍が大規模に縮小された場合、日本としても前線となる対馬の防衛を強化せざるを得ない。そうなると日本の防衛装備品の充実などは不可避であり、日本の防衛費は増額せざるを得なくなり、GDPの1%という数字は保てなくなるかもしれない。「専守防衛」という言葉ももしかしたら今後色あせてしまうかもしれない。

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