アジア勢として初めて南米のチームを破った日本代表、サランスクの奇跡はなぜ起きたのか?(写真・ロイター/アフロ)

サランスクのピッチに立った日本代表には闘志があった。がむしゃらにボールにむかい、いつぶっ倒れてもおかしくないような激しいプレーを90分間やりきった。そのハードワークの典型が原口だろう。彼は、どれだけダッシュを繰り返したか。そして、球際で粘った。うまさやテクニック、美しいパスワークだけを追い求めて結果に結びつけることのできなかった、どこかセンシティブな日本代表の姿は、もう、そこにはなかった。たくましく、一皮むけたように見えた。

 確かにラッキーは重なった。万全でないハメス・ロドリゲスは、後半14分に投入されたが、体のキレを欠き動けていなかった。ペナルティエリア内で、ボールを持つ機会が1度だけあってシュートを放ったが、そこに走りこみ足を伸ばしてブロックしたのが大迫だった。実力の上のチームが必ずしも勝つわけではないのが、サッカーというスポーツの魅力でもある。

 前半3分にカルロス・サンチェスはハンドの反則で一発退場となった。おそらくは、サンチェスは賭けにでたのだろう。PKなら、もしかするとミスもある。審判の判断によれば一発レッドが出ないかもしれない。狡猾な南米のチームらしい一か八かのディフェンスだったが、日本に吉と出た。

 昌子が敵からボールをクリア、香川がワンタッチでディフェンスラインの裏へボールを送った。それをイメージして走り出していた大迫が最前線で体をぶつけてボールをキープ。シュートは外れたが、香川が長い距離を走って、そこに詰めていた。立ち上がりにコロンビアのディフェンスは高いポジションにあった。積極的にロングボールを使って裏を取り、早い展開を仕掛けた日本の序盤の戦略は、香川らが、とっさにピッチ内で察知して考えたアイデアだったのかもしれない。こういうところにドイツでの経験値が生きている。

 香川がPKを蹴る前に、コロンビアのGKが話しかけてきて、一度、セットしたボールの位置にもクレームをつけられた。精神的な揺さぶりだったが、香川は笑っていた。あの表情を見たときに成功を確信した。PKは、最初から右、左と蹴る方向を決めておく場合と、GKの動きを読んで瞬時に判断する場合がある。今回、香川の選択は後者だったのだろう。細かい助走のステップは、香川のいつものリズムだが、その中で、GKの動きを読んで、その逆に蹴りこんだ。技術は世界一、弱いメンタルが問題。それが、これまでの香川だったのだが、この日の彼のメンタルは、何ごとにも、びくともしないほど強かった。