筆者はこれまでさまざまな本を読んできた。その中でも、今の筆者に決定的な影響を与えた本がある。それは『スイミー ─ ちいさなかしこいさかなのはなし』という絵本だ。オランダ出身でアメリカに亡命した絵本作家レオ・レオニ氏が1963年に出版した。日本では谷川俊太郎氏が翻訳した。40年以上も前から、小学校の教科書に収録されている名作である。

スイミー―ちいさなかしこいさかなのはなし(好学社)の書影

 筆者は小学生になる前からこの本を愛読し、大変な感銘を受けた。未だにどんなビジネス書や自己啓発本を読もうとも、筆者の中では『スイミー ─ ちいさなかしこいさかなのはなし』の右に出る作品はない。

 この本を読んだ多くの人は「スイミーのお話は、協調性や一人ひとりの個性の大切さを訴えている」という感想を持ち、感銘を受ける。しかし、筆者のポイントはそこにはない。

 本というのは、「読み手によって、受け取るメッセージが違う」というのは当たり前だ。筆者は、この作品の本質的なテーマは別にあると感じている。おそらく、レオ・レオニ氏が読者に本当に伝えたかった本質的なテーマは「孤独の先にある本当の自分」だと思う。

 スイミーという主人公の魚は、赤い兄弟魚の中で一匹だけカラダが真っ黒だった。そして、兄弟魚たちは大きな魚であるマグロに食べられてしまい、生き残ったスイミーは独りぼっちになってしまう。

 しかし、独りぼっちになっても絶望せず、海という広い世界を自分の目で初めて観察しながら泳いだ。そして、海がどんなに面白く、どんなに美しい世界であるかに気づき、スイミー自身が抱える「劣等感や孤独」というマイナスの感情を乗り越え、「本当の自分」という存在にも気づくのだ。

 そして、孤独の中で「自分とは何か」を意識し、この広い世界で自分がどういう立ち位置で、何の役に立てるのかを考える大切さを問いかけているのである。

 筆者がこの本に感銘を受けたのは、スイミーの生き方の中に、「障がい者が、障がい者として、自分の人生を幸せに生き抜く」ための大きなヒントがまさに隠されているからだ。

 誰でも人と違う見た目やカラダで生まれてきたら劣等感は感じるだろうし、障がい者として生きていく人生は、一般的な人生を歩むよりも閉鎖的になることが多い。筆者も今でこそ社会的に認めてもらえるようになったが、最初はそんなことは全くなかった。もし、この本と出会っていなければ、今の筆者のような考え方・生き方には至っていないかもしれない。

 スイミーのようにどん底を味わってから見えてくるもの。それは「自分とは何か」を考えるきっかけとなるのだろう。だからこそ、「孤独の先にある本当の自分」、それを知ることができるのなら、一度くらい人生で絶望的な孤独を味わうのもきっと悪くないはずだ。