サッカーワールドカップ(W杯)ロシア大会の8強入りをかけた日本対ベルギー戦は、いよいよ明日7月3日未明(日本時間)に迫っています。この決勝トーナメント進出をかけて先に行われた対ポーランド戦で日本がとった戦術は、国内外で物議を醸しました。

 文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋さんは、勝負のリアリズムにこだわった西野朗監督を武士道の本質と評し、そのリーダー像が日本文化の新しい形につながると考えます。ベルギー戦「日本文化の大局的勝利」について、若山さんの執筆です。

前代未聞

公式会見に臨む日本代表の西野朗監督=2018 FIFA W杯ロシア大会、7月1日(写真:ロイター/アフロ)

 「あれれ……。味方どうしでボールをまわしてちっとも攻めに行かないし相手も取りにこない……。どうなってんの」

 久しぶりの一次リーグ突破がかかったポーランド戦、最後の10分間はそんな状態だった。そしてみんな、ほかのゲームの成り行きを気にしている。

 こんな試合は見たことがない。

 ゲームの終了近くに勝っている方が時間を使って何事もなく終わらせようとする傾向はどの試合でも見られるが、むしろ負けている方が時間を使っているのだ。

 観客からはブーイングの嵐。

 案の定、翌日の外国マスコミは「アンフェアなフェアプレイ制度悪用、最低最悪のゲーム、観客をバカにした、サッカーの歴史を汚した」などの日本バッシングであった。「決勝トーナメントでボコボコにしろ」とまでいっている。ふーむ……。それが世界というものか。たしかにスポーツの敢闘精神に反するから、やむを得ないのかもしれない。

 ここではその善し悪しを論じるまえに、素人ながら、その戦略としての妥当性を検証してみたい。

女神のささやき

 予想に反して強敵コロンビアに勝ち、セネガルには引き分け、大いに盛り上がった感のあるポーランド戦、前半はかなりいいゲームだった。日本は、互角もしくは押し気味に推移して、一次リーグ突破も夢ではないと誰もが感じていた。

 しかし後半13分に点を取られてからは明らかに押され気味、取り返そうとして守備が乱れ、敵のカウンター攻撃を浴びて何度も危機にみまわれた。FIFAランキングにも相当の差があり、時間が経つにしたがって相手の強さを身に染みて感じさせられたのだ。

 一方、セネガルとコロンビアは0ー0で推移している。
 この時点で(後半20分から30分)、西野監督は一次リーグ敗退を覚悟したのではないか。

 そこへ変化が起きた。コロンビアが点を取ったのである。

 本当はセネガルに取って欲しかった。セネガルが勝てば無条件に16強へ進めるからだ。しかし点を取ったのはコロンビア。それでも引き分けよりは可能性が出てきた。日本が一点差で負け、セネガルも一点差で負ければ、反則の数で日本が16強に進めるのである。残り時間は10分ほどだ。

 「ヒョッとして……」
 女神のささやきが聞こえる。

 ポーランド戦、このまま攻めていって点を取り返す確率よりも、もう一点取られる確率の方が高いのではないか。一方、セネガルがこのまま負ける確率は残り時間から見てかなり高い。

 西野は考えた。
 ここはこれ以上失点しないことを最大の目標とすべきではないか。「追加点を取られない作戦」に切り替えるべきではないか。

 西野は考えた。